せっかくの休みは家でダラダラしたくない、でも混み合っている人気観光地に行くのはいやだと思う人は多いのではないでしょうか。そんなときは、和歌山のローカル線でのんびりする休日をおすすめします。日常から離れて、のんびりした時間を過ごしに行ってみませんか?
和歌山電鐵・貴志川(きしがわ)線は、フランス映画にも出演し、世界で愛されたネコ駅長「たま」で全国にその名が知られました。現在はその後を継ぐ「ニタマ」駅長が勤務し、コロナ禍でも列車「たま電車ミュージアム号」が生まれるなど、賑わいをみせています。その他にも、和歌山県には海辺を走る南海加太線の「めでたいでんしゃ」など、鉄道ファンでなくとも心がときめく列車がいっぱいです。
和歌山のスター「たま駅長」
駅長は猫!?就任までのストーリー
和歌山電鐵・貴志川線には、ネコの駅長が2匹います。終着駅の「貴志駅」には「ニタマ」が、「伊太祁曽(いだきそ)駅」には「よんたま」が勤務。ネコ駅長として全国で広く名を知られる、前任の「たま」の後継者です。なぜ和歌山電鐵では、ネコを駅長として採用しているのでしょうか。
もともと貴志川線は、沿線の日前宮(にちぜんぐう)、竈山(かまやま)神社、伊太祁曽(いたきそ)神社に詣でる「三社参り」を便利にしようと、1916年(大正5年)に設立された路線です。以来、住民の通勤通学に欠かせない路線として地元に根づいてきました。
しかし、赤字が続いたことから、2005年に事業の廃止届が出され、廃線の危機に瀕したのです。沿線住民が存続のため活動を行い、現運営会社が公募に名乗りをあげたことで、結果的に廃止を免れた経緯があります。
そんな人間たちの騒動を知ってか知らずか、のんびりと貴志駅隣接の雑貨店の飼いネコとして過ごしていた「たま」。しかし、余波は「たま」の身にも及びます。なんと、貴志駅のすみっこにあった「たま」の住処を撤去しなくてはいけないことになったのです。
商店の夫人は、引き続き貴志駅に住まわせてほしいと和歌山電鐵に直談判。小嶋光信社長は、「たま」の瞳から「なんでもするから助けてください」というメッセージを感じ取ったといいます。と同時に、立派な三毛猫である「たま」が駅長として貴志駅に勤務する姿が目に浮かんだそう。「予算削減のため無人駅にせざるを得ないが、駅長と名の付くネコちゃんが駅にいてくれるだけでもお客様に寂しい思いをさせずにすむだろう、『たま』を駅長にしよう」と決断したのです。
こうして2007年1月にオーダーメイドの本格的な制帽をまとい、「たま」は駅長に。勤務する姿は愛らしくも凛々しいと瞬く間に世界に報じられ、海外映画にも出演するほどの人気になりました。
さらに、気鋭のインダストリアルデザイナー・水戸岡鋭治さんデザインの「たま電車」などの楽しい電車が運行を開始したことにより、利用者がさらに急増。「たま」は、ローカル線再生の象徴となりました。
2015年に息をひきとった際には名誉永久駅長に任命され、今は貴志駅のプラットホーム内の「たま神社」に祀られて貴志川線を見守っています。
「たま電車ミュージアム号」と誕生秘話
そんな貴志川線をコロナ禍という再びのピンチが襲います。海外からの観光客が来なくなり、リモートワークで通勤客も減少してしまい、利用者が大幅減となったのです。その打開策の一環として、車内各所に初代たま駅長などをデザインした、博物館のような作りの「たま電車ミュージアム号」の運行を計画。クラウドファンディングを行ったところ、寄附を含め2,000万円近くの支援が集まりました。
「たま電車ミュージアム号」は、「たま電車」に引き続き、水戸岡さんがデザインを担当しました。漆黒の車体の中は、まるでサロンのよう。エレガントで豪華な仕上がりです。
「たま」をはじめ「ニタマ」「よんたま」など、770匹を超える猫のイラストが蒔絵のように描かれた天井は、いくら見ていても飽きることがありません。
こちらは「からくり仕掛け」の壁掛けおもちゃです。からくりが動くと「ニャーン」とネコの鳴き声が聞こえる仕掛けとなっており、大人も子どもも「どこからネコちゃんの声が!?」と、思わずキョロキョロ。
子どもたちが遊べるホワイトボードがあるコーナーは、ステップを上がった高い位置にあります。ワクワク感を感じさせる佇まいに、子どもたちは一目散にやってくるのだとか。
このお絵描きコーナーの隣には、貴志川線グッズをはじめとするカプセルトイコーナーもあり、ちょっとしたお土産にも良さそうですね。
見どころ盛りだくさんな貴志川線ですが、実際に利用される方は「こんな素敵な列車に普通料金で乗れるなんて」と、折り返して何度も乗車する人も多いのだそう。「たま電車ミュージアム号」は、ネコや鉄道のファンはもちろんのこと、ふらりと乗りに来た旅人をも魅了する、特別感あふれる列車。ついつい乗車時間が足りなくってしまいそうです。
ローカル列車の魅力
車窓の変わりゆく景色をのんびり感じよう
貴志川線は、和歌山市の和歌山駅から、紀の川市の貴志駅を約40分で結びます。和歌山駅から離れるほど、緑の森や池、美しい田園風景が車窓に広がり、ローカル線らしいノスタルジックな雰囲気に包まれます。
緑の車窓と、クラシカルな車内の調度品の影が、美しいコントラストを描きます。旅情をかきたてる光景です。
童心にかえって、車両のいちばん先頭、運転手さんの後ろを陣取るのもいいかもしれません。
聞いたこともない駅で降りてみるワクワク
大きな池が見えたら「大池遊園(おいけゆうえん)駅」です。春になると、大池のほとりには約1,000本もの桜が咲き誇ります。池を見渡せるイタリアンカフェ「セントゼファー」や、農家が運営するファーマーズマーケット「おいけのまど」などがあり、途中下車にはぴったりの駅です。
終着駅「貴志駅」には、たま駅長グッズを販売する「たま商店」と「駅長室」、お土産物やジェラートなど販売する「たまカフェ」があります。
カフェの座席の向かい側は、駅長室。かわいい「ニタマ」の様子を見ながら、コーヒーやジェラートをいただくと、おいしさは何倍にもなりそうですね。
貴志駅では駅舎も注目です。ネコ型の駅舎の屋根は、ヒノキの樹皮を加工して作る、伝統的な檜皮(ひわだ)葺き。全国の神社仏閣を手がけるこの檜皮葺の名人が、「『たま』の駅舎のためなら」と引き受けてくれたというから驚きです。ぜひ感慨深く眺めてみてください。
他にもある、和歌山のローカル列車
じっくり愛でたい「めでたいでんしゃ」
和歌山県のユニークでかわいい列車は、ネコがモチーフの貴志川線だけではありません。大阪との県境に位置する歴史ある漁師町、加太(かだ)エリアにはかわいいお魚をモチーフにした電車が通っています。その名も「めでたいでんしゃ」! 和歌山市駅~加太駅の間を25分で結びます。海の幸が豊富な加太エリアを象徴する、印象的な観光列車です。
「めでたいでんしゃ」は全4種。ピンクの「さち」はハートモチーフであたたかみを、ブルーの「かい」は、海の中のようなワクワク感を感じさせます。
「さち」と「かい」が結婚して生まれた子どもである、赤色の「なな」はめでたさを前面に、黒色の「かしら」は冒険船をモチーフにしています。
それぞれの運行ダイヤが公開されており、お目当ての電車に乗りやすいのも嬉しいポイントですね。
取材時には「さち」が加太駅にやってきました。思わず写真に収めたくなるかわいさです。
真っ赤なタイ模様の愛らしいシートが印象的な「さち」。つり革は魚の形となっており、まるで魚の群れが泳ぐように、電車の揺れに合わせて楽しげに揺れます。ほかにもタイをモチーフにした縁起物の壁掛けなど、かわいい仕掛けがいっぱい!見ているだけで楽しい気持ちになります。
古い街並みを散策し、女性にゆかりのある神社に参拝
めでたいでんしゃが通っている「加太さかな線」こと南海加太線の終着駅、加太駅は古い漁師町です。加太漁港のそばにあり、3月3日に行われる雛流しの神事が有名な「淡嶋神社」は約1700年の長い歴史を持ちます。「少彦名命(すくなひこなのみこと)」を祭神とし、女性の病気回復や安産など女性を守る神として信仰を集めています。
駅から漁港までは徒歩約20分。昔ながらの街並みを散策しながら、次はどの「めでたいでんしゃ」に乗ろうか思案するのも楽しいですよ。
移動しながらのんびり。和歌山のローカルを発見しよう
春の桜、夏の輝く海、秋の紅葉、冬のみかん畑…、海も山も近い和歌山ならではの車窓の風景は、目と心を優しく癒してくれるでしょう。スマートフォンをちょっと置いて、子どもの頃のように車窓の景色を楽しんでみませんか。和歌山のローカル線では、のんびりした休日を過ごせそうです。
みなぱん
キュートな電車に乗りながら、電車の中も、外の景色も楽しめる和歌山のローカル電車。個人的に、めでたい電車が停まる「磯ノ浦駅」で降りて、海の景色を眺めながらのんびりするのもオススメです。これからの涼しい季節に、みなさんもぜひ行ってみてください!