ここでは風力発電の実情を踏まえながら、そのメリットと課題をわかりやすく解説し、どのような解決策があるのかも考えていきます。これを読めば、風力発電についてより深く知ることができるでしょう。
※この記事は2022年4月12日に公開した内容をアップデートしています。
風力発電とは?
風力発電は、近年大きな関心を集めている「再生可能エネルギー」を利用する発電方式です。再生可能エネルギーとは、太陽の光や風といった自然界にもともと存在しているエネルギーのこと。枯渇することがないエネルギー源として持続可能な社会を実現するために、2019年度導入量が陸上風力が4.2GW、洋上風力はごくわずか、というところから2030年度の導入見込量を陸上風力が17.9GW、洋上風力は5.7GWという水準を目指しており、今注目されている発電方法です。風力発電以外の再生可能エネルギー発電についてもっと知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
参考:資源エネルギー庁「もっと知りたい!エネルギー基本計画③」
風力発電の仕組み
風力発電は、風の力を使ってブレードと呼ばれる巨大な羽を回し、回転の力を発電機で電気エネルギーに変換します。
風力発電の仕組みをもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
日本国内の風力発電の割合
2022年の発電実績によると、風力発電による発電量の割合は約0.96%。再生可能エネルギーの導入が進むにつれて発電量は年々増加していますが、全体の発電量に対しかなり少ないのが現状です。
今後、後述する洋上風力発電の普及と拡大が効率的な発電方法として期待されています。
風力発電のメリット
風力発電には、地球環境に負荷が小さいこと以外にも、さまざまなメリットがあります。具体的にどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
発電時の環境負荷が少ない
風力発電は、風の力を利用して発電を行います。そのため、発電の過程で二酸化炭素(CO2)が排出されることがないのです。CO2を排出しないことは、地球への環境負荷の観点から見ても風力発電の大きなメリットの一つだといえます。
実際、地球温暖化を食い止めるためにCO2をはじめとした「温室効果ガス」の排出量を減らしていくことが世界的な枠組みの中で目標化されています。日本でも、2030年のCO2排出量を2013年と比べて46%減らすという目標を掲げており、その重要なエネルギー政策の一つとして風力発電の普及・拡大は有力視されているのです。
資源が枯渇するリスクがない
風力発電のエネルギー源である風は、自然界に常に存在するエネルギー源です。そのため、化石燃料のように残存量を心配せずにすむことがメリットの一つであり、将来にわたって使い続けることができるエネルギーだといえるでしょう。
発電コストが低い
風力発電は、大規模な発電を可能にできれば石炭火力やLNG火力と言った火力発電並みのコストで発電できることがわかっています。さらに、風車の高さやブレードによっても変わりますが、風力発電は高効率で電気エネルギーに変換できるのも特徴です。
陸上と洋上で発電が可能
風力発電は陸上だけでなく洋上でも行えます。
陸上風力発電は、強い風が吹く山岳地や海岸付近に多く設置されます。
関西電力グループでは、2022年現在、淡路風力発電所や田原4区風力発電所がありますが、いずれも複数の風力発電機で発電しています。
一方、洋上風力発電とは、風車を海に設置し、洋上の風を利用して発電するものを指します。洋上では陸上と比べて強い風が安定的に吹くため、多くのポテンシャルを有しています。
陸上風力は開発が進み、設置に適した土地が減少してきており、更なる再生可能エネルギーの拡大のため、海に囲まれた日本のポテンシャルを有効活用できる洋上風力発電は再生可能エネルギーの中でも注目されています。
2022年現在では、欧州を中心に普及・拡大している洋上風力発電ですが、関西電力は、世界有数の洋上風力発電事業者RWE Renewablesと提携し、日本国内での大規模な洋上風力発電事業の実現可能性を検討しています。
風力発電の課題
多くのメリットがある風力発電ですが、その一方で普及・拡大を阻む課題もあります。
発電量が天候に左右される
風力発電は風の力を利用して発電するため、風が吹かなければ発電できません。また、台風などの暴風時は風が強すぎるため、発電することはできません。そのため、発電量は風や天候の状況に大きく左右されるという特徴から、「変動性再生可能エネルギー」と呼ぶこともあります。
上図から、風力発電や太陽光発電の発電量は天候などによって大きく増減することがわかります。一方で、私たちが使う電気の量は、季節によって使用量に違いはあっても、日々の天候によって大きく左右されることはそう多くありません。そのため、風力発電などの変動する発電量をカバーするには、天候などに影響されない発電方法を組み合わせたり、電気を貯めておくシステムを利用したりすることが必要になってくるのです。
建設できる適地が少ない
陸上風力に適した条件は、強い風が絶えず吹き続けていること。具体的には秒速6m以上の風が吹く土地が適しているとされています。しかし、こうした条件にかなう土地は、実は日本ではそう多くないのです。
また日本は国土の4分の3が山地のため、条件に合う風の強い場所も山間部に集中しています。山間部に大きな風力発電機を建設するとなると、平地に建設する場合と比べて開発しにくく、コストが膨らんでしまうことが懸念されます。
風車の回転に伴って騒音が発生する
風力発電では、風が吹くと大きな風車がぐるぐると回転します。この回転で空気の流れが生まれるため「風切り音」という騒音が発生してしまいます。
風車が回転する音そのものは105デシベルほどであるとされています。これは、電車が通過しているときのガード下と同じくらいの騒音レベルだとされ、かなり大きい音であることがイメージできるでしょう。
そのため風力発電所の建設に当たっては、近隣の住民への十分な説明と理解が必要ですし、騒音の影響を少なくするために、近隣の住宅地から一定の距離をとることができる広大な土地での建設が求められるという実情があります。
風力発電の課題を補うためには?
さまざまな課題を抱える風力発電ですが、こうした問題をクリアするための解決策も講じられているところです。それぞれの課題に対して、どのような解決策が考えられるのかご紹介します。
蓄電池を活用
天候によって発電量が大きく左右される課題に対し、蓄電池の運用が注目されています。
蓄電池を活用すれば、風力発電や太陽光発電などの再生エネルギーの発電量が多い時間帯に充電し、発電量が少ない時間帯や電力の需要が高い時間帯に放電することが可能になります。
関西電力では、新会社「E-Flow」を設立。2024年4月の開所を目指し、蓄電所の開発を進めています。
参考:系統用蓄電池事業で電力需給安定化と再エネの主力電源化へ――E-Flow
浮体式洋上風力発電の導入
日本では、陸上に風力発電機を設置するのに適した土地が少ないという課題に対しては、海の上に風車を浮かべる「浮体式洋上風力発電」の導入が進められているところです。
海洋大国と呼ばれる日本は、他の国に関与されずに、天然資源を掘ったり、科学的な調査を行ったりできるエリアが広いのです。このエリアに風力発電を導入しようとする取組みが始まっています。
日本周辺の海域は日本近海で地球表層を覆うプレート(地殻)と呼ばれる大きな岩盤が沈み込んでいるため、深海域が多いのが特徴。そのため、より深い海でも設置できる浮体式洋上風力発電が、日本周辺の海域に適していると考えられています。
騒音対策
風力発電に伴う騒音については、2016年に環境省が対策などを取りまとめています。具体的には、建設前に騒音についての詳しい予測を行い、設計に反映することや、ナセルと呼ばれる風車上部の部品に防音材を設置することなどが挙げられます。
また、風車の設置後にも、測定データを蓄積したり、メンテナンスにおいて振動対策を施したりすることも重要です。さらに、音の性質に着目した対策や、空力音の予測といった技術開発なども必要です。
参考:風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会『風力発電施設から発生する騒音等への対応について』(2016年11月)
より環境にやさしいエネルギーを目指す風力発電
風力発電には、発電の際にCO2を排出しないことはもちろん、資源が枯渇しないことから将来世代にわたって使い続けることができるという大きなメリットがあります。環境にやさしく、未来もずっと使えるという点は重要なポイントだといえるでしょう。
一方で、発電量の変動性や騒音、適地が少ないという課題があることもわかりました。
こうした課題に対してそれぞれ解決策がとられ、同時に浮体式洋上風力発電という新たな取組みもスタートしています。課題をうまく補い、地域や環境によりやさしい発電のあり方を模索することが求められているといえるでしょう。
こうちゃん
浮体式洋上風力発電が未来にどのぐらい普及していくのか、とても興味があります!