まだまだ発展途上の乗り物である電気バスについて、関西電力eモビリティ事業グループの金谷典幸に、詳しく聞いてみましょう。
電気バスってどんなバス? 今までのバスとの違いは?
―電気バスって、一体どんなバスなのでしょう? 本当に電気だけで動くんですか?
金谷「はい、電気バスは100%電気だけで動くバスです。従来のバスは燃料(ディーゼル)を燃やして走っていますが、電気バスはそれを燃焼させる原動機(内燃機関)が必要ないので走行中はCO2などの排気ガスを全く出さないんですよ。排気ガスの匂いだけでなく騒音や振動もほとんどなくて、乗り心地がとても快適なのが特徴です」
―それって、匂いや揺れが理由でバスが苦手だった方にも嬉しい話ですね。ほかにはどんなメリットがあるんでしょうか?
金谷「大きく2つのメリットがあります。1つ目は経済性。ガソリンタンクやエンジンが不要なのでバス自体が軽くなり、ディーゼルバスと比べて少ない燃料コストで走行できるようになりました。そして、部品が減るのでメンテナンスも簡単になり、その分のコストも抑えられるんです。また、ブレーキをかけた時の抵抗を利用して発電することも可能であり、今まで捨てていたエネルギーを回収して再利用するエコなシステム(*1)を搭載しています。
*1:回生 (かいせい) ブレーキシステム
―走りながら発電できるんですか! でも、バス1台を動かすためにはそれなりの電力が必要になりそうです。充電はこまめに行うんですか?
金谷「基本的には1日に1回、営業を終えた夜間に約5時間かけて充電を行います。車種によって異なりますが、フル充電すると1日の走行距離に相当する約150~200kmの走行が可能です。
主に夜間に充電することになるのですが、夜間の電気料金が安い料金メニューを適用することで、電気代が抑えられるメリットもあります。ただ、お客さまの運行計画によっては夜間の充電のみでは充電量が不足することもあるので、その場合は必要に応じて日中にも充電を行うこともあります」
金谷「2つ目は環境性。電気バスは走行中のCO2の排出がないことは、先ほどもお話しました。加えて、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギー(太陽光や風力など)を活用した環境メニューである『再エネECOプラン』をご採用いただくことで、走行中だけでなく充電中もCO2を全く出さない『ゼロエミッション』を実現したんです」
電気バスの普及に向けて
―話を聞いていたらすぐにでも乗りたくなりました! でも、あまり街中では見かけないですね。これから増えていくんでしょうか?
金谷「そうですね、電気バスはディーゼルバスに比べてまだまだ高価なんです。そこで国が普及を力強くバックアップしています。政府は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目標とした『カーボンニュートラル宣言』を発表。達成のためにさまざまな事業を立ち上げ、企業の取組みを後押ししています。その一つが、環境に優しい車両を購入する際に、補助金を出す事業です(*2)。
この補助金は緑ナンバー、いわゆる運賃を受け取って運行する車両を対象としており、運賃のない白ナンバーの車両については、環境省が補助金事業を実施しています。(*3)
電気バス導入のためのコストには、バス本体の購入や充電設備の設置などに係る初期投資コストと走行など事業運営に必要な運行コストがあるのですが、初期投資コストがディーゼルバスに比べて高いという難点があります。でも、補助金を利用すればディーゼルバスとのコスト差が10年以内に逆転する可能性が高いんですよ」
*2: 地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車普及促進事業
*3: 環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業
―なるほど。関西電力としても、電気バス普及に向けて一役買いたいところですよね!
金谷「私たちの所属するeモビリティ事業グループでは、『電気バスパッケージサービス』を提供しています。具体的には、車両本体・急速充電器・受電設備の更新等の電気バス導入に必要な設備の導入、さらにはエネルギーマネジメントのトータルサポートや補助金申請までをワンストップで行っています」
―エネルギーマネジメントって具体的には何をするんでしょう?
金谷「電気バスの運用コストを削減するために、充電の運用を最適化するんです。
分かりやすく説明すると、スマートフォンの通信量と同じように電気の契約にも使用できる電力量の上限が設定されています。これを契約電力といいますが、もし、何もコントロールしないまま充電すると今の契約電力をオーバーしてしまい、基本料金の増加につながってしまいます。
仮に契約電力を50kWオーバーしてしまったとします。これはコンビニエンスストア1軒が1カ月で消費する電気に相当しますが、料金にすれば一年間で約100万円も増加してしまいますし、一度上がった基本料金は一年間は下げることができません。このような電気料金の大きな負担増、これが電気バスを導入する各社の大きな課題でした」
―何も対策しないと一年間で100万円の負担増! これでは導入したくても二の足を踏みますね。
金谷「そこで関西電力では、運行に適した最適な充電を実現するエネルギーマネジメントシステムを開発しています。これにより、電気バスの運行に必要な充電量を確保しつつ、お客さまの電気料金の大幅な負担増を防ぐことが可能になるんです」
金谷「2021年度は阪急バス・京阪バス・近鉄バスの三社より関西電力に相談いただき、補助金の取得からサポートして電気バスの運行を開始しました。その他のバス運行会社も環境保護やSDGsに対する意識が非常に高く、前年と比べ大幅にお問い合わせ件数が増えています。また、バス会社以外でもホテル・商業施設・アミューズメント施設などシャトルバスをご利用される企業や従業員輸送バスをご使用される企業からもご相談をいただくことが増えてきているので、きっと街で電気バスを見かける機会がぐんと増えますよ!」
乗るだけではない! いざというときにも役立つ電気バス
金谷「実は、電気バスは乗り物以外の使い方もあります。バッテリーに蓄えている電気を、災害時などに電力源として利用できるんです。例えばバスを避難所まで走らせて、家電などの充電用としてバッテリーを解放することができます。バスの大きさにもよりますが、1台で一般家庭1カ月分の電力 (約300kWh)を供給可能です」
―それは便利ですね。現代は電気のない生活は考えられないですから。
金谷「『動く蓄電池』ともいえる電気バスが、有事の際の生命線になり得ると考えています。電気バスは環境面だけでなく、BCP(*4)対策面でも貢献する重要な役割を担っているんです」
*4:緊急事態時に事業継続するための手段を決めておく計画
エネルギー“完全”自給自足の電気バスが走る未来
―電気バスって海外では広まっているんですか?
金谷「海外では、スイスのツェルマットのように、すでにEVだけが通行を認可されたエリアがありますし、中国の深センでは公共交通機関であるバスやタクシーは100%EV化しています」
―日本でもそんな街が誕生するんでしょうか?
金谷「電気バスは排気ガスを出さず騒音も少ないので、住民や環境を保護するためにディーゼルバスの運行が規制されているエリアでも走れるんです。実際に、自治体から導入の相談も増えています。電気バスが走る街は、環境意識が高い街。その街の魅力にもつながりますよね」
―将来「住みたい街」の条件に電気バスの普及率が入るかもしれませんね! 都心部だけでなく、もっと広いエリアに普及するんでしょうか?
金谷「はい。電気バスはそもそも『内燃機関がなく制御する機器が少ない』ため、自動運転と非常に相性が良いんです。自動運転になれば、運転手不足に悩む自治体でも住民の足として電気バスを走らせることができます。またレールが必要な電車と違い、ルートを自由に設定できるので、好きな場所で乗り降りできるオンデマンドバス(*5)としての活躍も期待できます。
AIが目的地までの最短ルートを解析して自由度の高い運行も可能に。住民の足として地方都市を支える未来はそう遠くないはずです」
*5:決まったルート、時刻表がない乗り合いバス事業
―タクシーのように乗り降り自由なオンデマンドバス、行動範囲が広がりそうです!
金谷「その実現のためにも、当社はエネルギーマネジメント分野の研究を進めていきたいと考えています。将来的には、走行するバスの多くが電気バスになる日も遠くないかもしれません」
―私たちの住んでいる街が、電気バスが自由に走るクリーンな街に変わっていくのがとても楽しみです。
まとめ
温暖化や大気汚染の原因になる排気ガスを全く出さない「ゼロエミッション」の乗り物であるだけでなく、実はエネルギーの安定供給を担うインフラとしての顔も持つ、電気バス。身近な存在であるバスの未来に向けた変化を、ぜひ体感してください。
だいちゃん
街で見かけたらラッキー!?電気バスを見かけたら是非乗って体感してください!