ミニシアターが街からなくなる!? 閉館相次ぐミニシアター
みなさんは最近、映画館に行っていますか? DVDのレンタルや、ネットのサブスクでも映画鑑賞ができる時代。映画を観るために「映画館に行く」という行為自体が減っているのではないでしょうか。また映画館そのものにも変化が見られ、昔の映画を上映する「名画座」や、座席数の少ない「ミニシアター」の閉館が顕著です。
ミニシアターの魅力は、「ほかでは上映していない映画が観られること」「思いがけない作品との出会いがあること」です。そんなミニシアターを支えるのは、『一本でも良い作品を!』という運営者の強い熱意と、映画ファンの愛。こうした小さな映画館は、数は減るものの各地で営業を続けています。今回はその一つ、大阪で26年の歴史を紡ぐ「シネ・ヌーヴォ」にお邪魔しました。
大阪の映画好きが集う「シネ・ヌーヴォ」とは
開館は1997年。代表である景山理氏は学生時代から自主上映活動をしており、そうした同志の作品や、一般に公開されない映画を紹介する「映画新聞」を1984年に発刊。やがて「映画新聞で取り上げたような作品を実際に上映できる映画館を作りたい!」という声が上がり、紙面を通じて寄付を呼び掛けました。それが1996年の11月号のこと。すぐに全国の映画ファンや監督などから続々と支援金が集まり、翌年1月には開館できる運びとなりました。
ただ、「お金は集まったもののハコがない」というまさかの本末転倒な状況に。そこで景山代表が探して出合ったのが、閉館した昔の映画館――現在の「シネ・ヌーヴォ」となる建物でした。
ここでちょっと、「シネ・ヌーヴォ」の館内をご案内しましょう。外壁にはバラをモチーフにしたブリキのオブジェ、半地下となったフロアにメインシアター「ヌーヴォ」、急な階段を上がった先にサブシアター「ヌーヴォX」があります。
69席を有する「ヌーヴォ」は、高い天井からいくつもの針金の輪が連なり、壁には泡のような模様が描かれています。これらのデザインのコンセプトは「水中映画館」。天井を水面に見立てて、観客は水底で映画を観ているような疑似体験ができるのです。針金の輪は水面に立ちのぼる気泡。そこを照明が照らすとシャンデリアのように輝き、真紅のソファに光が降り注ぎます。スクリーンに映像が映されなくとも、何と優美な空間でしょう。
内装を手がけたのは、大阪を拠点に活動していた伝説の劇団「維新派」。彼らは自分達の公演する小屋を手作りし、終わると解体して何も残さない独自のスタイルで知られていました。“映画とは、日常から非日常へ入ることである”。それを水中映画館として表現したシネ・ヌーヴォの建物は、彼らが唯一、未来に残る建造物として手がけた作品でもあるのです。
本当に水の中にいるようで、不思議と心が落ち着く空間でした。
シネ・ヌーヴォならではの“ディープな映画体験”って?
実際に作品を鑑賞してみました。この時上映していたのは「福田村事件」。関東大震災直後の混乱の中で起こった、日本人による朝鮮人差別や虐殺をテーマにしたシリアスな作品です。
映画館を訪れた経験が数えるほどしかない初心者でしたが、大スクリーンの映像では主演の田中麗奈さんの肌のきめ細かさまで見てとれ、両サイドから聞こえるサウンドの臨場感にあっという間に映画の世界に引き込まれました。
パソコンやスマホで見る映画とは比べ物にならない没入感。100年前の日本で撮影したとしか思えないほどのリアリティや、柄本明さん、ピエール瀧さんら大俳優たちの迫真の演技に圧倒されます。エンディングでは、客席のあちこちから感嘆の声が聞こえました。
これぞ、家で観る映画とは違った体験。そしてパッと明るくなったシアターでは、普通の映画館であればすぐに現実に引き戻されるはずなのに、水泡のオブジェに囲まれしばらく白昼夢の中にいるような感覚です。これが維新派の描いた、「水中映画館」の仕掛けなのかもしれません。
映画館には、「映画+何か」がある
支配人の山崎紀子さんにお話を伺いました。もともと山崎さんは別の映画館でアルバイトをしており、2001年にシネ・ヌーヴォに入社。前任者の後継として2008年に支配人に就任しました。「映画は好きだったけれど、まさか15年支配人をやるなんて思わなかった…」と笑いますが、映画のことになるとキラキラと目を輝かせて話す様子は、もうどっぷりと“そのスジの人”です。
「よかったら今から映画が始まるので、映写室をご覧になりますか?」と山崎さん。なんと、通常は絶対入ることのできないバックヤードを見せて下さるとのこと!
シネ・ヌーヴォには映写技師が3人在籍しており、その中で最若手の20代女性技師が今まさに開演する映画をデジタル画面で操作しています。暗闇でパネルを真剣に見つめる様子がカッコイイ…。今はこうして全ての作品がデジタルかと思いきや、「フィルムの作品もまだまだあります。この隣がフィルムの映写機です」。
初めて見る映画のフィルムにもテンションが上がりました。膨大な長さのフィルムに、写真のようなコマが連続して印写されています。24コマで1秒の映像となり、2時間の作品だとフィルムは3000mほどの長さになるそうです。これをスクリーンに投影して、パラパラ漫画のように映像が動いているように見せるわけです。映画ってこんな風にできているんですね!
肝心なスケジュール編成についてのお話も。シネ・ヌーヴォでは二つのシアターで一日10本ほど、毎週違った作品を上映しています。その趣向はさまざまで、「ベトナム映画祭」「超大怪獣大特撮大全集」「アルノー・デプレシャン特集」といった企画上映から、新作の邦画、有名監督のマイナー作品、社会派ドキュメンタリーまで…。どのように作品をセレクトしているのでしょう?
「これまで上映したことのない作品を中心に、代表と相談しながら決めています。新作の公開に合わせて同じ監督の過去作品を集めたり、俳優にポイントを当てて特集したり。監督さんや作家さんからの売り込みもありますよ」。
売り込みとは興味深いですが、これまでの歴史の中で多数の監督さんとのコネクションがあり、直接やりとりして上映を決めることも多いそう。
たまたまこの日は「女優 芦川いづみ映画祭」の開催前。常連さんでもある、芦川さんの生涯を書いた本の著者との共同企画です。
また毎週末には監督を招いたトークショーも開催しています。実際に映画を作った本人に話を聞くと、作品への理解もより深まりますよね。さらに年末には「マサラ上映」も復活。インド映画を特集し、12月30日の最終上映後には紙吹雪で客席を埋め尽くすイベントが行われるそう。「スクリーンが見えなくなるほど、雪のように紙吹雪をみんなで投げ合うんです。もうしっちゃかめっちゃか(笑)。今年の疲れを吹っ飛ばしてほしいなって思います」。
ただ映画を楽しむ目的だけではなく、イベントを狙ってくるのも一つの楽しみ方ですね。
単に「観る」だけではない、クリエイターとの交流やお祭りに「参加」できるのがミニシアターの面白さ。「ミニシアターへ行くのがまだ敷居が高いなと思っている方は、『映画プラス何か』があることに着目していただくと来やすいかもしれないですね」と山崎さんは話します。
映画が身近な今の時代だからこそ、「映画館で観る」体験を
この取材を通して、一気にシネ・ヌーヴォ、そして映画館そのものの面白さにすっかり魅了されてしまいました。大きなスクリーンで観るという醍醐味だけでなく、膨大な作品の中からあるテーマに沿って上映作が編成され、これまで全く未知だった世界に触れることができる体験を一人でも多くの方に知ってほしいと感じました!
シネ・ヌーヴォのある九条という街も、大きな商店街があり歩くだけで楽しいエリアです。「カレー激戦地なんです。あと美味しい町中華、パン屋さん、居酒屋さん。仕事終わりに1人でビールと焼鳥、とかよくあります(笑)」と山崎さん。推し店を紹介する手書きのイラストマップまで作っているそうで、映画の後は街歩きというコースを推奨します!
取材後はマップの中から山崎さんおすすめのスパイスカレーのお店に行ってきました!
次回九条に行く際は、マップの他のお店にも行ってみたいと思います。
店名 | シネ・ヌーヴォ |
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住所 | 大阪府大阪市西区九条1-20-24 |
電話番号 | 06-6582-1416 |
Web | http://www.cinenouveau.com/index.html |
普段映画を観る機会は少ない私ですが、この取材を機に一気に映画の奥深い世界へハマってしまいました。。。作品だけじゃなく様々な魅力の詰まったシネ・ヌーヴォに、ぜひみなさんも足を運んでみてください!