大正期からの「ものづくりの街」がアートの拠点に
木津川の水運を利用し、造船所が多く建てられた北加賀屋。関連部品や鋼材の工場もあり、大正時代から「ものづくりの街」として賑わってきました。しかし産業構造の変化により造船所が移転し、空き家や空き工場が目立つようになってきたのだそうです。
そんな街の産業遺産や歴史的価値を再認識し、アートの力で活性化させようと、2009年に提唱されたのが「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」。街にアーティストやクリエイターを呼び込み、空き工場や空き家などを芸術文化活動の拠点として活用することを目指しています。
不動産会社が、北加賀屋にアートの可能性を見出したワケ
KCV構想を支えているのは、北加賀屋周辺の土地を所有する「千島土地株式会社」と同社が設立した「おおさか創造千島財団」。千島土地株式会社はもともとアートとの接点はありませんでしたが、2004年に自社所有の名村造船所大阪工場跡地にてアートプロジェクトが開催されたことがきっかけで、アートの可能性を見出したといいます。
その後も空き家や工場をアーティストやクリエイターに貸し出したり、旧文化住宅を複合施設として再生させたりと、さまざまなプロジェクトを始動。今も現役の町工場から機械の音が聞こえる街は、「製造」と「創造」が共存するハイブリッドなものづくりの街としてクリエイターから注目を集め始めました。
産業・建築遺産を蘇らせた、主要アートスポットをご紹介
ここで、KCV構想によって生み出された北加賀屋のアートスポットをいくつかご紹介しましょう。
どんなアートスポットがあるのか、ワクワクします!!
●クリエイティブセンター大阪(CCO)
北加賀屋がアートの街としてスタートした原点です。名村造船所大阪工場跡地を、30年間継続するアートプロジェクト「NAMURA ART MEETING‘04-’34」の拠点として活用。その後、創造スペースや展示、イベント会場として利用可能な複合施設「クリエイティブセンター大阪(CCO)」をオープン。
普段は一般立ち入り禁止ですが、7月末のアートフェアなどイベント時に公開されます。原寸で船の図面を描いたという広大な製図室が見ものです。
●MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)
2014年、旧工場・倉庫跡を大型アート作品の収蔵庫として再生。名和晃平氏、やなぎみわ氏、ヤノベケンジ氏など世界的に活躍するアーティストの作品を保管しています。
建物の端から端まで、アート作品がいっぱい!!!これは贅沢な空間ですね。
こちらも普段は閉扉していますが、秋のアートイベント時など期間限定で公開されます。
●千鳥文化
築約60年の文化住宅を改修し、食堂やギャラリー、テナントが入居するまちの文化複合施設として2017年にオープン。
「TEA ROOMまき」のファサードを残した食堂や、「劇団維新派」の史料や映像を展示したアーカイブ、金氏徹平氏によるインスタレーション作品の常設展示などもあり、いつでも楽しめる場所です。
壁の穴をのぞくと………わ!!!アート空間が広がっています!
のぞく穴の大きや場所で、見え方が変わるのもおもしろいポイントですね!
増改築を繰り返したため迷路のような造りで、当時の面影が至るところに残っています。ちなみにここは「千島」ではなく「千鳥」なのです。
●Super Studio Kitakagaya(SSK)
元造船所の倉庫をリノベーションしたシェアスタジオ。若手クリエイターが作品を制作したり、アーティスト・イン・レジデンスとして活用したり。こちらもイベント時のみ公開されます。
“日本に来た証”として遺された、壁&まちなかアート
こうしてアートのイベントや創作活動のため国内外からアーティストが出入りするうちに、「自分が来た痕跡を残したい」という声があり、街中に壁画を描くプロジェクトが始動。空き家の壁や、工場の塀、店舗のシャッター、道端などに、絵だけでなく立体作品も点在しています。
その数は、現在33点にのぼります。アート施設は普段非公開のものが多いですが、ウォールアートや道端の作品はいつでも見ることができるのが魅力です。たくさんのアートが点在するので、初めて来た人はどこから見たらいいのか、迷ってしまうかもしれません。そこで、宇野さんのおすすめアート散策コースを教えていただきました。
思わず写真を撮りたくなってしまうウォールアートに胸が高鳴ります…!
北加賀屋駅~名村造船所大阪工場跡地、約30分のアート散歩
まずは大阪メトロ四つ橋線の「北加賀屋駅」から出発しましょう。4番出口を出たらアート散歩の始まりです。アート自体を遠くから眺めて全体像を楽しんだり、至近距離で見つめて細かいディテールを発見したり、楽しみ方は自由です。
千島土地株式会社が入る北加賀屋千島ビルの建物裏にあるのは、oakoak氏による作品。消火栓がロボットの目になった、洒落のきいたアートになっているのが面白いですね。
あまりにも日常に溶け込みすぎて、しっかり探さないと見落としてしまいそう!
キュートなロボットのアートは、私もお気に入りです!!
近くにはイギリスのBen Eine氏がシャッターをキャンバスにした作品も。KKって何のことか分かりますか?「K」ITA「K」AGAYAの頭文字だそうです。大きな作品なので、引いて写真を撮るのがおすすめですね。
「K」ITA「K」AGAYAに来た記念にパシャリ!
新なにわ筋を渡ると、千鳥文化があります。1階の千鳥文化食堂ではランチやスイーツ、が楽しめるようになっており、散策の休憩にぴったりです。
その横にはあるのは、「みんなのうえん」というシェア農園です。農園といえども、マルシェやワークショップなど利用者以外も参加可能なイベントがあるのでみんなのうえんのSNSをチェックしてみるのもおすすめです。なお、園内には彫刻家の西村正徳氏によるひまわりをモチーフにした作品があり、イベントをやっていない時でもフェンスの外から覗くことができます。
「特別養護老人ホーム 加賀屋の森」敷地内には、きゃりーぱみゅぱみゅさんの衣装で知られる増田セバスチャン氏のオブジェがあります。「未来の植物」をテーマとし、夜にはカラフルに点灯します。ポップで楽しい世界観と、周りののんびりした空気のミスマッチが面白い作品ですよ。
増田セバスチャン氏による「未来の植物」がテーマの作品!
なんだか美味しそうな見た目です…笑
大きな作品だけでなく、足元にも注意が必要です。こちらはなんともキュートなマンホール!これは旅する巨大アート作品《ラバー・ダック》のアヒルちゃんで、北加賀屋エリアの8カ所で見ることができます。探してみましょう!
クリエイティブセンターの向かいには巨大なサンショウウオが。鐵羅佑氏が絶滅危惧種のカスミサンショウウオをモチーフにした鉄製の作品です。
最後は、現代美術作家タムラサトル氏による電動仕掛けの作品。「本来、機械は何か仕事をするためにありますが、この大阪マシーンは何も仕事をしません」という説明書きがある通り、100円を入れると、「大阪」という形に巡らされたチェーンがぐるぐる回るだけ、という脱力感満点の作品です。
シュールな動きを眺めた後のなんともいえない気持ちは、思わず笑ってしまうこと間違いなしですね!
アート&スポット散策マップ「北加賀屋CHAOS」
千島土地・財団では北加賀屋に点在するクリエイティブ拠点やアート作品、壁画などを紹介するマップ「北加賀屋CHAOS」を毎年発行しており、WEB上でのダウンロードも可能です。
カフェや酒場、レトロ喫茶店などのグルメ情報も写真付きで掲載しているので、一日中北加賀屋を満喫することができるはず。
これからは7月末のアートフェア、10月末から11月のアートイベントなど非公開スペースのオープンイベントもあるので、ぜひ出かけてみてください。必ず、お気に入りのアートや“推し壁”が見つかることでしょう。
街を歩くと次から次に出会えるアート作品にワクワクすること間違いなし!次の週末のおでかけ先にいかがですか?