※この記事は2023年1月26日に公開した内容をアップデートしています。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは
GXとは「グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)」の略称で、従来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造を、クリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を目指す取組みです。
産業革命以降、エネルギー源として石油や石炭、液化天然ガス(LNG)といった化石燃料が多く使われてきました。それらを再生可能エネルギーや原子力などのクリーンエネルギー中心に転換し、温室効果ガスの排出削減と産業の競争力向上の両立を目指そうとするのがGXの考え方です。
GXが必要な背景
2022年12月、GX実現に向けた政府方針が取りまとめられたことで、注目度が高まったGX。ここからは、GXの背景にある大きな課題や世界の潮流について解説します。
地球温暖化の進行
まず、GXの背景の一つに挙げられるのが、地球温暖化です。地球温暖化は、人間のさまざまな活動によって二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量が増加していることが主な原因と考えられています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、最悪のシナリオで温暖化が進行すれば、21世紀末には、産業革命前と比べて世界平均気温が3.3~5.7℃上昇する可能性があるとされています。
もし、このまま地球温暖化が進んでしまうと、気温の上昇がさまざまなところに影響を及ぼし、豪雨や洪水などの異常気象や、海面の上昇などが起こると懸念されています。また、陸上や海洋の生態系への影響により、食糧不足に陥るリスクなども指摘されています。
そこで、これ以上地球温暖化を進めないために、原因であるCO2など温室効果ガスの排出量を削減する動きが加速し、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を目指すGXに関心が集まっています。
参考:JCCCA「WG1 第1作業部会(自然科学的根拠)」
参考:JCCCA「地球温暖化の影響予測(世界)」
2050年 カーボンニュートラルの宣言など脱炭素化の進展
次に、GXの背景として考えられるのが、国内における脱炭素化の進展です。地球温暖化対策を求める世界的な流れが加速する中、日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」、つまり脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。
さらに、これを受けて経済産業省は同年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。これは、カーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな分野のイノベーションを促し「経済と環境の好循環」を生み出すことを目的とした産業政策です。温暖化への対応を経済成長のチャンスと捉えて、脱炭素化と経済成長を同時に達成していこうという考えに基づいています。
今後、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すうえで、従来の経済社会システムから、環境に配慮された社会システムへの変革を目指すGXは、ますます重要な位置づけとなっていきます。
参考:首相官邸「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」
参考:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」
エネルギー価格の高騰
昨今の不安定な世界情勢や化石燃料価格の高騰などを受けて、エネルギー資源を安定的に確保することの重要性が高まっています。
日本では今、石油や石炭、LNGといった化石燃料のほとんどを輸入に頼っています。また、足元の日本のエネルギー自給率は約12.1%(2019年度)と、ほかのOECD諸国(経済協力開発機構)と比べてとても低い水準です。エネルギー自給率とは、必要なエネルギーのうち国内でまかなうことのできる割合のことで、日本は必要なエネルギーの9割近くを海外に頼っているのが現状です。
そのため、世界情勢などの影響で化石燃料の価格が上がってしまうと、国内のエネルギー価格や電気代などの高騰に繋がってしまうのです。暮らしに欠かせないエネルギー価格が高騰してしまうと、生活に大きな影響が出てしまいます。
こうした背景から、国がGXに取り組むための方向性を示した「GX実現に向けた基本方針」では、安定的で安価なエネルギー供給は、日本の最優先課題であり、今後GXを推進していくうえでも、エネルギー安定供給の確保が大前提であることが明確に記されています。GXを実現するためには、発電する際にCO2を排出しない再生可能エネルギーや原子力発電、新技術である水素発電など、多様な電源を活用して電気の安定供給を確保しながら、カーボンニュートラルを推し進めることが重要だといえるでしょう。
参考:資源エネルギー庁「2021—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
日本政府のGX実現へ向けた取組み
ここからは、「GX実現に向けた基本方針」の具体的な内容について紹介していきます。GXに関する取組みとして重要なエネルギー政策と、経済・社会、産業構造の変革に向けたロードマップについて解説します。
再生可能エネルギーの伸長
2050年カーボンニュートラルを実現するには、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの発電量を大幅に増やす必要があります。そのため、政府が2021年10月に改定した「第6次エネルギー基本計画」には、2030年の電源構成(エネルギーミックス)の36~38%を再生可能エネルギーとすることが盛り込まれ、再生可能エネルギーを主力電源化することが掲げられました。
主力電源化のためには、太陽光発電や洋上風力発電が抱える課題を解決しながら導入を拡大することが求められます。
具体例としては、常に安定した電力を提供するため、各地域に送電するための仕組みの整備や、天候に左右されやすく発電量が安定しないという再生可能エネルギーの課題を解決するため、足りなくなった電力を素早く補える火力発電のゼロカーボン化を目指す取組みなどが挙げられます。
また、再生可能エネルギーの大量導入に向け、海に浮かべた風車で海風を電気に換える「浮体式洋上風力発電」の開発など、イノベーションの加速なども不可欠だと考えられています。
原子力発電の最大限活用
原子力発電は、発電する際にCO2を排出しないことに加え、天候や時間帯に左右されることなく大量の電気を安定して発電することができます。
また、原子力発電の燃料であるウランは、比較的情勢の変化が少ない国に点在している資源であり、安定して確保することができることから、発電コストの急激な上昇を防ぎ、電気代の安定化に繋がります。さらに、使い終わった後の燃料を再処理し利用することができるため、資源の乏しい日本では準国産エネルギーとして位置づけられています。
2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、将来にわたって持続的に原子力を活用するために、安全性の確保を大前提に次世代革新炉の開発・建設などが方針に取り入れられました。次世代革新炉とは、現在の原子炉よりも安全性が高く、効率よく発電できる発電設備のことです。
なかでも、次世代型革新炉の一つである「革新軽水炉」はもっとも開発が進んでいて、関西電力と三菱重工などが実用化を目指して共同開発に取り組んでいるところです。革新軽水炉は、地震や津波などの自然災害への耐性強化や、大規模航空機衝突・テロ対策などといった安全対策に加え、出力を調整して再生可能エネルギーの変動を補うなどの機能向上が追求されています。
さらに、原子力発電所の運転期間に関する規制も見直しが進められています。従来、原子力発電所の運転期間は原則40年・認可を得れば最長60年と法律で定められていました。しかし、再稼働に必要な審査などで停止している期間を除外することで、実質的に60年を超えて運転できることを可能とする基本方針が取りまとめられました。
参考:内閣官房「GX実現に向けた基本方針(案) ~今後10年を見据えたロードマップ~ 」
参考:経済産業省「エネルギーを巡る社会動向を踏まえた革新炉開発の価値」
水素・アンモニアの導入促進
今回の基本方針には、発電・運輸・産業など幅広い分野で活用が期待されている、水素やアンモニアの導入促進についても盛り込まれています。
現在、火力発電の燃料として主に利用されている石油・石炭・液化天然ガスは、量に差はあるものの、どれも燃やすことでCO2を排出します。一方、火力発電は燃料を増減することで、発電量を調整することができます。電気の需給状況に応じて柔軟に発電量を調整できる、必要不可欠な発電方式なのです。そこで注目したいのが、燃やしてもCO2を排出しない、水素やアンモニアを用いた火力発電です。
特に水素は、電気を使って水から取り出すことができるのはもちろん、さまざまな方法で製造が可能なため、国内の余剰な再生可能エネルギーを用いて製造・利用すれば、エネルギー自給率の向上が可能となります。
このように、水素はエネルギーの安定供給のために重要なエネルギーの一つとして、活用が期待されているのです。
「カーボンプライシング」の実現・実行
今回の基本方針では、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行についても盛り込まれています。
カーボンプライシングとは、気候変動の主な原因である炭素に価格を付ける仕組みのことです。これにより、炭素を排出する企業が排出量に応じて金銭的に負担することになるため、排出者の行動を変容させる政策手法とされています。
今後、具体的な制度設計がなされていく予定ですが、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、経済と環境が好循環することが重要となります。
経済や国民生活の基盤である電力の安定かつ低廉な供給が確保されるかどうか、という観点も含めて、検討していく必要があります。
脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革に向けて
前述のエネルギー施策を踏まえたうえで、GXに向けた経済・社会、産業構造変革に関する取組みのうち主要なものについて解説します。
アジア・ゼロエミッション共同体構想など国際展開戦略
世界のCO2排出量の約半分は、アジアの国々によるものであり、アジアにおけるCO2排出量の低減の重要性が高まっています。そこで、日本は2022年1月、アジアのGXの実現に貢献するため、アジア地域全体の脱炭素化を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提案しました。
この構想に基づき、アジア各国がカーボンニュートラルを目指すうえでの課題や具体的な取組みについて議論が行われる予定です。これによって、国同士の支援や協調を通じて新たなテクノロジーの活用が進み、アジア全体の脱炭素化が進むと期待されます。
参考:JCCCA「データで見る温室効果ガス排出量(世界)」
参考:経済産業省「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合を開催します」
経済産業省によるGXリーグ
国内においても、経済産業省が「GXリーグ」というカーボンニュートラルの実現を目指す取組みをスタートさせています。GXリーグとは、GXに取り組む企業が、行政や学術機関、金融機関などと協力しながら、経済社会システムを変革するにはどうすればよいか議論したり、新たなマーケットを創造したりする場として位置づけられています。
GXリーグは2023年度から本格的に稼働を始めました。2023年8月23日現在、関西電力を含む計566社もの企業が構想への賛同を宣言し、制度設計に関与しています。
参考:GXリーグ
参考:GX実行推進担当大臣「我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて」
企業のGXへの取組み
国だけでなく、企業の間でもGXへの取組みが行われています。GXに取り組むことは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。また、具体的にどのような取組みが進められているのか、解説します。
GXに取り組むメリット
企業がGXに取り組むメリットとしては、カーボンニュートラルに積極的な企業であることを対外的に示すことで、企業のブランディングに役立つと共に、気候変動に伴う事業リスクの回避や脱炭素の潮流に伴う事業機会の獲得が期待されます。
GXに取り組む企業事例
関西電力は、GXリーグに参加し、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度に比べて70%削減することを目標として設定しています。また、この目標値を「関西電力グループ統合報告書2023」で開示しています。
また、関西電力が100%出資するE-Flow合同会社を通じて、太陽光発電や風力発電といった分散型エネルギーリソースをより効率よく使うための取組みも進めています。具体的には、AIを利活用したサービス開発を行うエクサウィザーズとともに、電力ネットワークに繋いだ系統用蓄電池を有効活用して、カーボンニュートラルを実現するための取組みを2023年度に開始しています。
さらに、長年培ったエネルギーに関する知識をもとに、他の企業がカーボンニュートラルに取り組む際のサポートなども行っています。
まとめ
GXとは、地球温暖化対策にとどまらず、経済成長も同時に実現するために社会や産業構造全体を大きく変革する取組みです。GX実現のためには、エネルギー安定供給の確保を前提とした、再生可能エネルギーや、原子力発電の最大限活用により脱炭素を推し進めていくことが重要です。GXに関する取組みは今後、ますます加速を続けていくことでしょう。
みなぱん
こうして記事にすることで、私も改めてGXに関する理解を深めることができました!今後この方針を基に、社会が変化していくのが楽しみです!