「紀の川蓄電所」とは?
気象予報士の蓬莱大介さんが、和歌山県にある「紀の川蓄電所」を訪れたのは冬のある寒い日のこと。2024年12月に運開したばかりの最新鋭の蓄電所を訪ねました。

左:蓬莱大介さん、右:関西電力 ソリューション本部 開発部門 蓄電池事業グループ部長 織田俊樹
敷地面積8,000平方メートルという広大な敷地に建設されたこの施設は、定格出力48MW、定格容量113MWhという、現在国内最大級(関西電力調べ)の「系統用蓄電池」施設です。これは一般家庭約1万3,000世帯分の1日の電力使用量に相当します。
系統用蓄電池とは、いわば電力網の「調整役」。一般家庭の蓄電池とは異なり、系統用蓄電池は電力系統(発電所・送電線・変電所・配電設備などの電力網)に直接接続される大規模な蓄電施設です。
その主な役割は2つ。1つ目は電力需給のバランス調整。電力需要の低い時間帯に余った電気を貯め、電力需要の高い時間帯に放電することで、電力の安定供給を支えます。
2つ目は再生可能エネルギーの有効活用。天候に左右される太陽光や風力発電の出力変動を吸収し、再生可能エネルギーの普及を後押しします。

日本で最大級の蓄電規模を誇る紀の川蓄電所
「まず驚かされたのが、施設の規模の大きさですね」と蓬莱さん。敷地内には、64台の白いコンテナが整然と並んでいます。

ずらりと64台。真っ白なコンテナが並びます。
いったい、このコンテナの中はどうなっているのでしょうか。今回は特別に中を見せてもらいました。

開けるとすぐに、興味津々でのぞき込む蓬莱さん。

1万個以上のリチウム電池がずらりと並びます。
中には手のひらサイズのリチウムイオン電池が、棚にびっしりと入っています。その数なんと1万個以上! これが64台のコンテナすべてに収められているのです。24時間体制での監視システムと厳密な温度管理など、先進的な技術を結集した安全管理体制も整えられています。

コンテナ内は常に一定温度を保っています。

「この規模の蓄電施設は日本でまだ数例です」と織田。
紀の川蓄電所は、建設費用約80億円という大規模プロジェクト。国も次世代の電力インフラとして期待を寄せ、約25億円の政府補助金が投入されました。地中ケーブルで近くの電力系統に接続することで、効率的なエネルギー供給を実現しています。
紀の川蓄電所は、単なる蓄電施設にとどまらない、日本のエネルギー転換の象徴として注目を集めています。では、なぜいま、このような大規模な系統用蓄電池が必要とされているのでしょうか?
「紀の川蓄電所」の誕生秘話! なぜ作られたの?
「実は、この施設には大きな使命があるんです」と織田。それは、日本のエネルギー事情が大きく変わりつつある中で、新たな「調整役」が必要とされているというお話。その舞台裏を詳しく聞きました。
電気の需要と供給のバランスを取る蓄電所

「野球ならレギュラーですね」。調整の大切さを表現する蓬莱さん。
電気業界で長年伝えられてきた供給の常識。それは「電気はためることができない。作られた瞬間に使われなければならない」ということ。
「朝は皆さんが活動を始めるので電気の使用量が増え、夜中は減ります。しかし、例えば太陽光発電は、昼間しか発電できず、天候によって発電量も変動します」と織田。こうした時間による電気の余りと不足を調整するのが、紀の川蓄電所の重要な役割なのです。
電気を作りすぎてもダメ。余った電気を一旦受け止めて、必要なときに出すという存在こそが蓄電所の大きな役割なのです。
再生可能エネルギーの導入拡大の布石

電気の未来と安定供給を担う蓄電所。期待がかかります。
日本は2040年までに、電力の4~5割を、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでまかなうことを目指しています。
しかし、天候に左右される再生可能エネルギーには、安定面での課題があります。電気は需要と供給のバランスが崩れると停電につながってしまうため、火力発電所がその調整役を担っています。火力発電は、燃料の投入量を変化させることで出力を自在にコントロールできる特徴があり、例えば太陽光発電の出力が急に低下した場合には、火力発電の出力を素早く上げることで電力供給を安定させています。

※上記は送配電網協議会・経済産業省から引用・加筆
紀の川蓄電所は、この火力発電所と同じような調整能力を持っています。蓄えた電力を瞬時に放出できる蓄電池は、火力発電と同様かそれ以上に柔軟な調整が可能だといえます。
このように紀の川蓄電所は、再生可能エネルギーの主力電源化という、日本の大きな転換点を支える重要な施設として期待されているのです。
関西電力が見つめる、電気の未来

関西電力にとっても大切なプロジェクトである紀の川蓄電所。「ここは、私たちの挑戦の第一歩です」と熱く語ります。

関西電力は、2023年4月に、エネルギーリソースアグリゲーションビジネス(※)に特化した新会社「E-Flow合同会社」を設立。AIを活用した最新のプラットフォームを用いて、さまざまな電力リソースを効率的に管理・運用していく計画です。
系統用蓄電池事業は、電力需給の安定化と再生可能エネルギーの有効活用を同時に実現する「切り札」です。
「私たちは、北海道から九州まで、全国各地で系統用蓄電池事業を展開していく構想を持っています」。その言葉からは、日本のエネルギー転換を牽引していこうという強い意志が感じられます。紀の川蓄電所は、まさに日本の電力インフラの転換点に立つ、象徴的な存在になるでしょう。
自然の力を活かしながら、効率的に電気を届けていく。紀の川蓄電所には、そんな未来の電気の形がありました。
(※)エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスとは、蓄電池等の分散型エネルギーリソースを多数束ねてコントロールし、仮想の発電所(Virtual Power Plant)のように機能させることで、再生可能エネルギーの活用促進、災害時のレジリエンス向上、経済的な電力システムの構築に資する次世代のエネルギービジネスです。
(参考資料:資源エネルギー庁 「エネルギー・リソース・ アグリゲーション・ビジネス(ERAB)」)
気象予報士の目線から…蓬莱大介さんインタビュー

蓬莱さんおなじみのイラストボードも登場!
蓄電所の見学を終えた蓬莱さんに、気象予報士としての視点から、今回の取材の感想とかんでん WITH YOU読者に向けてメッセージを伺いました。
――今回、蓄電所を実際に見学されてみていかがでしたか?

蓬莱さん:自分の国でエネルギーを作れるということは、とても大切なこと。中でも、温室効果ガスを出さない太陽の力や風の力を使うというのは、21世紀型社会として大切な方向性だと思います。
ただこれまでは、たくさん作れるほど良いのではと、単純に考えていたんです。でも今回の取材で、作りすぎてもダメなんだということを学びました。電気の需要と供給のバランスを取ることの大切さを理解できました。
――気象予報士として、再生可能エネルギーや蓄電技術の進化に期待するのはどのようなことですか?

蓬莱さん:気象予報士の立場からも、CO2削減にはじまる気候変動対策は重要なテーマだと感じています。エネルギーの問題は気候変動と密接に繋がっています。気候変動がより激しくなっていく可能性がある中で、それを食い止めるためにも、こういった施設の役割は重要だと感じています。

勉強熱心な蓬莱さん。気象のプロの目で地球の未来を見つめています。
――読者の方々には、どんなことを知っていただきたいですか?

蓬莱さん:再生可能エネルギーは、今後もどんどん拡大していく分野です。大切なのは、エネルギーを無駄にしないためにも、蓄電技術も同時に進化させていくことです。
この蓄電所は、私たちが使う電気のバランスを24時間体制で支えています。実は私たちの暮らしに密接に関わっているんです。とても身近な施設なんだということを知っていただけたらと思います。
蓬莱さんの詳しい見学の様子は、動画でもご覧いただけます。ぜひ、蓄電所の最新設備や、蓬莱さんが新しい発見をする瞬間をチェックしてみてください!