実藤俊太
(再生可能エネルギー事業本部HpXグループ/プロダクションマネジャー)
大学院卒業から4年間、水力発電の現場および技術検討を行ってきました。現在は、水力発電のDXに向けた検討を行っています。
鳥島綾
(再生可能エネルギー事業本部 運営グループ/プロダクションリーダー)
高校卒業から13年間、主に水力発電の現場で働いてきました。好きなダムは黒部ダムです。
湯川量平
(再生可能エネルギー事業本部 HpXグループ/デザインクリエイター)
大学院卒業から2年間、主に水力発電所の新設工事に携わってきました。現在は水力のDX推進に従事しています。
水力発電の未来を変える!「次世代水力リボーンプロジェクト」とは?
2023年に始まった「次世代水力リボーンプロジェクト」は、関西電力の水力事業に関わる20~30代の若手社員8名を中心に構成されています。どのような背景で立ち上がったのか、どんなことについて議論しているのかを伺いました。
関西電力は1891年に日本初の事業用水力発電所である蹴上発電所に始まり、今日に至るまで152カ所の水力発電所を維持・運用してきました。一方で、水力発電事業を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。そこで、150年目、さらにその先の未来に向かって先人からのバトンを繋いでいくために立ち上がったのが「次世代水力リボーンプロジェクト」です。プロダクションマネージャー(本プロジェクトにおけるリーダーの役割)に指名されたときは驚きましたが、以前から「今後の水力がどうなっていくのか」について漠然とした不安を覚えていたので、頑張ろうという気になりました。
初めてこのプロジェクトを聞いたときは「壮大な映画のプロジェクトかな?」と少しドキドキしました。私は高校卒業後から今に至るまで水力の現場で働いてきたので、長年の経験で培った知識の部分で貢献できればと思っています。
私は入社3年目でまだ経験も浅く、正直に言うと「どんなことするんだろう」という不安が大きかったですね……。でも、自分以外のメンバーにも若い人が多いので安心感があります。
部署は違えど、年が近いメンバーばかりなので少しずつ距離が縮まっているように思います。
プロジェクトのコンセプト「Beyond150(水力発電事業150周年を越えて)」も、メンバーで議論して決めました。この言葉にたどり着くのは、なかなか大変でしたね。
「表現が堅すぎる」と言われたりして(笑)。現在は、このコンセプトのもと「働き方」「水力発電システム」「地域の皆さまとのつながり」の3つの観点を軸として検討を重ねています。
水力発電の働き方をリボーン!
「次世代水力リボーンプロジェクト」の“リボーン“にかけ、続いては「働き方」「水力発電システム」「地域の皆さまとのつながり」について、それぞれ変化させていきたいと感じることをディスカッションしてもらいます。
私は「どこでも働ける環境」に変えていきたいです。そう思うようになったきっかけは、コロナです。数年前にコロナが蔓延したときは出社を制限されて、いつも通りに仕事をすることが難しくなりました。水力発電って現場に行かないとわからないことが多いんですよ。どこでも働ける環境になれば、どんな人でも、どんなときでも、柔軟に仕事を続けていけるのではと考えています。
実藤さんと少し似ていますが、私がリボーンしたいのは「都会への移転」です。水力は、山の水が豊かなところでないと発電できません。でも、技術の導入次第では、働く場所においては都会でも可能になるんじゃないかと思うんです。私は学生と接する機会も多いのですが、最近の若い方は田舎より都会で働きたいという気持ちが強まっているとも感じます。若手に魅力を感じてもらう事業にするためにも、勤務場所の都会への移転はぜひ取り組んでいきたいです。
働く場所は、住む場所にも関係してくるから重要だよね。私は富山県出身で、黒部で勤務していたことがありますが、宿舎の周りには何もないので勤務時間外は退屈で退屈で……(笑)。だから「住環境」をリボーンさせたいですね!
言われてみれば、私の周囲では、都会にある京都水力センターが人気の勤務地ですね。
都心部にあるもんね。駅も近いし、商業施設もあるから休日も楽しめるし。
発電所の中には、車で1時間くらいかけないと最寄りのコンビニにたどり着けないなんて場所もあるので(笑)。
そうなんですよ。ただ、各地にある発電所やダムは今後も必要ですし、そこで働く人をゼロにすることは難しいと思います。周囲の環境は変えられないから、例えばWi-Fiを完備したり相部屋じゃなくて一人部屋にしたりと、老若男女ともに快適な住環境を用意できたらいいな、と思っています。それが働きやすい職場づくりにも繋がるんじゃないかと。
確かに発電所には男子トイレしかないところもありますね。時代が変わり、最前線で働く女性も増えているので、女性も働きやすい環境に整えていきたいですね。
水力発電システムをリボーン!
続いてディスカッションするのは「水力発電システム」です。
ずばり「メンテナンスフリーの実現」! 先ほども話した通り、現場で働く人員をゼロにすることはなかなかできない。でも、なるべく人の手がかからないシステムにすることで、ごくわずかな人数でローテンションしながら現場の人たちの働き方も選べたら良いなと思います。通信インフラの整備などやるべきことはたくさんありますが、次世代の水力事業を模索する上では目を背けてはいけない課題だと思いますね。
うん。今の時点では「夢物語に近い」と思われてしまうかもしれませんが、向き合うべきことですね。私が変えていきたいのは「世界最先端の水力システム」。今の発電所はDXの基盤がないので、現場に行かないとデータが確認できません。つまり、保守点検を担当する人は必ず発電所の近くにいなければいけない状況です。あらゆる業界はDXを取り入れて変わりつつあるので、水力事業もその潮流に乗るべきだと思います。
DXを導入しない限りは私が掲げた「メンテナンスフリーの実現」も不可能なので、ぜひ形にしていきたいですね。
水力発電においては北欧が世界の最先端だと言われているので、そういった事例も参考にしながら取り組んでいきたいと思っています。
私は「設備の3Dマップ化」です。設備の状況を3Dデータに落とし込めれば、変な挙動が発生していないかをすぐに目視できます。現在も数値のデータはとっているものの、二次元的にしか把握できないので、3Dで多次元的にわかるようになれば、非常に便利だな、と。
湯川くんは工事関係の仕事経験があるから、“ならでは”の視点だね。
パソコンやスマホから現場の様子がわかれば、負担はかなり減らせるはず。やはり「次世代水力リボーンプロジェクト」とデジタルは、切り離せない関係だと実感します。
地域の皆さまとのつながりをリボーン!
最後は、「地域の皆さまとのつながり」において変えていきたいこと。関西電力の社内に留まらない地域の課題解決や関係づくりは、次世代水力リボーンプロジェクトの中でも重要なテーマです。
地域との関係を深めるために、よりオープンな情報交換が必要だと考えています。現場で工事にあたっていた頃、排水で漁協の方に迷惑をかけてしまうリスクがありました。事業の仕組み上、こうした問題は今後も避けては通れないと思うんです。でも、デジタルを活用し、閉鎖的な工事の状況を地域の方がリアルタイムで把握できるようになれば、私たちの取組みを少しは理解していただけるのではないかと思っています。
湯川くんが言う通りで、我々は地域の方が住む場所で発電をしているので、良好な関係を保つことは大切だと思います。つまり、「地域社会との共創」をもっと考えていかなければいけない。押し付けのような地域貢献ではなく、自治体と関西電力の双方が求めていることを解決できるような関係性が理想です。
鳥島さんの「共創」と少し似ていますが、私は「地域振興」を良くしていきたいと考えています。例えば私が所属しているHpXグループでは、三浦ダムがある長野県の木曽町とタッグを組んで「三浦ダム発酵貯蔵プロジェクト」と題し、新たな地元の特産物を増やしていく取組みに力を入れています。このように、関西電力の名前をうまく使っていただきながら地域の方と協力し、ともに地域を盛り上げることができれば良好な関係は築けるのではないでしょうか。
持続可能な社会へ繋ぐ、次世代水力の形
水力発電を未来に繋いでいくためには、「自由な働き方」や「高度な技術開発」、「地域との関係性」などがキーワードになってきそうです。最後に、今後の意気込みについて語っていただきました。
プロジェクト内で描いたメニューは、できるだけ実行に移せるように頑張りたいですね。ときには失敗することもあると思いますが、やらない後悔よりやる後悔。まずは一歩踏み出すことから何事も始めたいと思っています。
今回のプロジェクトは2040年代の事業環境まで想定するという、非常に長期的な取組みです。これまで水力事業を担ってきてくださった熟練社員の方々が減ってきている今だからこそ、若い世代の力が必要なんだと思っています。未来にバトンを渡せるよう、一つひとつ課題をこなしていくことが自分たちの使命だと肝に銘じ、着実に歩んでいきたいです。
水力事業が若い人にとっても魅力のあるものになっていければと思っています。時代の流れを汲んで新たなことに挑戦するなかで、「すごい仕事なんだ」「やりがいがあるんだ」と感じていただけるような発信をしていきたいです。
社内の若手にも、もっと興味を持ってもらいたいね。先人が積み上げてきたものに頼るのではなく、デジタルネイティブ世代の我々だから提案できる令和の時代に合った水力発電のあり方を、これからも考えていきます!
エネルギー変換効率が高く、発電の際に二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンな水力発電。柔軟に形を変えて流れる水のように、「次世代水力リボーンプロジェクト」は、これからも社会の流れに沿った柔軟な水力事業の未来を描いていきます。