「デパートに発電所?」と驚くかもしれませんが、その正体は体験ツアーを提案する旅行代理店です。ツアープランに「余白時間」を組み込み、日々予定に追われる現代人の心と体を癒やす贅沢旅を提供しているとのこと。いったいどんなプランなのでしょうか。その魅力に迫ります。
「余白力発電所」とは― 余白をつくる新しい旅のカタチ
阪急うめだ本店8階・トラベル売り場の一角にある余白力発電所。取材に訪れた私たちを出迎えてくれたのは、TRAPOL合同会社の廣瀬圭祐(右)と真庭妃捺(左)です。
―まず気になったのが「余白力発電所」というネーミングです。なぜこの名前を付けたんですか?
廣瀬「現代の人々は、目の前の仕事や時間に追われて日々を過ごしている方が多いように感じています。そこで旅を通じて時間や気持ちに『余白』をつくってもらうことで、新しいことに取り組むエネルギーをチャージしていただきたい。そんな思いで『余白力発電所』と名付けました」
―確かに日々の暮らしに「余白」って必要だな〜と思っていても、なかなか実現できないですもんね。体験ツアーのコンセプトについても教えてください!
廣瀬「ツアーと聞くと定番スポットを巡る『団体ツアー』をイメージする方が多いと思います。もちろんそういった旅も素敵ですが、私たちが提案するツアーは、体験にかかる所要時間を緩やかに設定することで、時間が余るようにしているのが特徴です。私たちはこの余った時間を『余白時間』と呼んでいます」
―余白時間、ですか。
廣瀬「はい。この余白時間には、当日の天候やお客様のご要望に合わせて、予定にはない地域の日常に潜む贅沢を堪能していただくようにしています。地元の漁師さんに船で美しい夕日を見に連れていってもらったり、たまたまやっていた地元のお祭りに参加したり……。偶然起こる出来事を楽しんでもらうのが狙いです」
―最近のツアーは「自由行動」「自由時間」を盛り込んだものも多いですよね。「余白時間」はそれらといったい何が違うんですか?
廣瀬「やはり地域に潜む贅沢な物事をよく知る『余白案内人』の存在ではないでしょうか。地域のことを熟知するからこそ、『このスポットからの夕日がとても綺麗』だとか『この時期にお祭りが開かれている』といった情報も持っています。余白案内人の方と相談しながら現地で起こる偶然を楽しむ、そんな特別感に満たされた旅行を満喫していただくのが、私たちのツアープランの醍醐味です」
―余白案内人がキーパーソンなんですね!
廣瀬「余白案内人となる方には、私たちTRAPOLのスタッフが現地に赴き、直接お話をしてからお願いをしています。自治体や地域の方からご紹介いただくだけでなく、出張先で偶然巡り会った素敵な方にご提案したこともあります」
―印象に残っている方はいらっしゃいますか?
廣瀬「たくさんいるなかで一人挙げるとすれば、島根県の隠岐島で出会った大戸忠志さんです。大戸さんは、漁師、農家と幅広く一次産業に携わっているため、提供できる体験の幅がとても広い方なんです。庭で育てた果物を収穫したり、大戸さんの船で沖まで行ってトビウオ釣りをしたり、それをあご出汁に加工したり。極上の田舎アソビが体験できます!」
―確かにそういった貴重な体験は、パッケージツアーだとなかなか叶わないですよね……。
廣瀬「SNSの登場でさまざまなものが『見える化』された結果、私自身、日常が変わり映えのしない平凡なものだと感じることがしばしばありました。でも地方に行ってみると、自分の心のままにさまざまな事柄に取り組み、幸せに満ちた暮らしを送っている方々がたくさんいらっしゃいます。そんな生き方に直接触れる私たちの体験ツアーは、きっと刺さる人がいるのではないかいう自負があります」
旅の計画は、Webよりお店が楽しい?
―そんな余白力発電所の実店舗が2023年5月にオープンしました。「ネット時代にわざわざお店を?」と疑問に思ったのですが……。
廣瀬「私たちが提案する『余白時間』の体験ツアーは、お客様からすれば『いったいどんな体験ができるのか』を理解しづらい部分があります。そこで、旅ナカでできる体験を直接お伝えする場が必要だと感じていました。そんな時、『想いをつなげる~With Local~』をコンセプトにトラベルフロアのリニューアルを進めていた阪急うめだ本店さんからお声がけをいただき、出店が実現しました」
―実店舗ではどんな体験ができるんですか?
真庭「一番大きな特徴は、旅先と店舗をオンラインでつないで余白案内人の方と直接コミュニケーションがとれる機会を提供していることです。旅先の魅力や最新情報などを発信するだけでなく、案内人の『ひとの魅力』に触れることもできるんですよ」
廣瀬「また、店頭にはツアーのプランが入った『旅ガチャ』を設置して、当たったプランを特別価格でご購入いただけます。少しでも私たちのプランに興味を持っていただけるような店づくりを心がけています」
―旅に行く前から楽しめそうですね! ちなみにお客様にはどんな方が?
真庭「当初はご来店される方を30~40代と想定していましたが、いざ蓋を開けてみると20代の方も数多く訪れています。あと、うれしい想定外だったのが、ご家族で来店するケースが多かったことです。『子どもたちに特別な体験をしてほしい』という親御さんのニーズがあったのだと思います」
ウナギ釣り体験に、自由すぎる陶芸体験まで
―お客様から人気のツアーを教えてください!
真庭「今は京阪神からすぐ行ける手軽なツアープランが人気ですね。京都府宇治市の『ウナギ・鮎の塩焼き体験』もその一つ。このツアーでは、ウナギ釣りやウナギつかみ取り体験、ウナギの蒲焼きができるまでの工程を近くで見学できます。季節によっては鮎のつかみ取りや塩焼き体験も楽しめるんです」
廣瀬「同じ京都府ですと、山科区にある工房での陶芸体験も参加者の方々から高評価です。代々陶芸家の家系で生まれ育ち、これまでに多くの賞を受賞した鈴木順翔さんが教えてくれるのですが、いきなり2kgの土を渡されて『これで自由に作陶してください』とひとこと。それだけなんです(笑)。参加者の方もどうすれば良いか戸惑ってしまいますが、鈴木さんがとにかく教え上手で、参加者の方も周りにあるいろいろなアートからインスピレーションを得て、思い思いに陶芸を楽しんでいますよ」
―Webサイトを見ると遠方のツアープランばかりをイメージしていましたが、京阪神からすぐ行けるプランも充実しているんですね。
真庭「やはり『余白時間』と言われても、多くのお客様からすれば『何ができるの?』と思われる方が多いのが正直なところです。まずはカジュアルに参加できるツアーを通じて、お客様に私たちの体験ツアーの魅力を知っていただくことが大事だと感じています」
―どんな方にこのツアーを利用していただきたいですか?
廣瀬「『働き過ぎ』だと自覚している方にぜひおすすめしたいです。一度、時間を空けていただいて、自分の『余白』や『のりしろ』をつくりませんかというご提案をしたいですね。私自身、出張で地方に出かける機会が多いのですが、そこには都会とは違った時間が流れていることを毎回実感します。飽きることなく夕日を眺めていると、自然とインスピレーションが湧いたり、前向きになったりできる。そういった時間って必要ではないでしょうか」
余白のなかで偶然の出会いを楽しむ、余白力発電所で旅に出よう
廣瀬「コロナ期間で多くの人に強制的に『余白』が生まれたことで、自分自身の人生に迷いが生じている方が増えているのではないかと感じています。そういった方に、私たちのツアープランを通じて自分自身のこれからを見つめ直していただければ……。そんな体験が叶う機会をこれからも提供していきたいです」
旅程にあえて「余白」をつくり、偶然の出会いを楽しむツアープランを提案する余白力発電所。現在取り扱っているのは国内ツアーですが、今後はベトナムやモンゴルなど海外ツアーも展開する予定だそう。Webサイトで気になるプランがあれば、お店を訪れて余白案内人とお話してみてはいかがでしょうか?
みかりん
旅行中の空き時間を予定で埋めず、余白を描きながら過ごす旅こそ、心と体を癒やす贅沢旅に繋がるんですね!