突然ですが、「O&M」という言葉を知っていますか? Operation&Maintenanceの略で、発電の現場では、安全に発電し続けるための運用管理や保守点検を指します。いつも使っている電気、その裏側にはO&Mに携わり電力供給を支える人々がいるのです。
今回、話を聞いたのは、火力発電のO&Mを変革するプロジェクト「BVC2030」のメンバーたち。脱炭素社会の実現に向け、技術や設備の進化が求められる火力発電分野において、それを動かす人々の働き方もアップデートすることを目指して活動しています。
「BVC2030」って? それは火力発電の未来を創るプロジェクト
寶滿「火力発電は人々の暮らしや産業を長年支えてきた重要なインフラです。しかし、時代はどんどん変化しています。既存の考え方のままでは立ち行かない部分もある。そこでまず、これからの時代に求められる火力部門、未来に実現したい火力部門の姿について、ワークショップを通じてメンバーと議論するところから始まりました」
ー時代に求められる”とは?
寶滿「例えば、『脱炭素』。関西電力で発電する電力の約半分は火力発電によるもので、再生可能エネルギーの発電量に合わせて出力を細かく調節できる利点もあるのですが、やはり二酸化炭素(CO2)排出量が多い問題には向き合う必要があります。また、そうした大きな問題に取り組むときに必ず考えなくてはならないのは、O&Mのこと。いくら技術や設備が進化しても、現場の業務や働き方が変わらないと成立しませんからね」
松山「『デジタル化』も大きなテーマですね。私が所属しているデジタル運用グループでは、O&M業務の一部をデジタル化して作業員の負荷を軽減しようとしています。
人の代わりにロボットが発電所内を巡回して設備を撮影し、その写真をAIが判断するんです。こういったデジタル技術を導入するときには、発電所のニーズを組み込んでいくことが重要で、その調整に苦労することもあります……(汗) 未来を見据えて、社内間のギャップを埋めていくことも、このプロジェクトの意義だと思います」
火力発電を現場から変えたい! 熱い想いをもって集まったプロジェクトメンバー
―お二人のほかに、どのようなメンバーが参加しているんですか?
松山「プロジェクト参画者は全員で26名です。火力部門のベテランから若手まで、本社や発電所で働く社員もいれば、O&Mに協力いただいている外部の会社のスタッフもいますよ」
―火力発電に関わるあらゆる人が参加しているんですね!
寶滿「関西電力の火力部門は、総勢1,300名を超える大きな組織です。そのため、他部署や協力会社の方と一斉に意見交換できる機会はなかなかありません。BVC2030では、自分の持っていない視点、知らない世界を知り、アイデアを伝えあうことができるので刺激的に感じます。実際に、松山さんのようなデジタルに強い方が『今はこういう優れた技術があって、導入したらこんなに働き方が良くなるんだよ』と教えてくれて驚くこともありました」
―異なる職種の人たちが集まるからこそ、目的が食い違うこともあるのでは?
寶滿「職種は異なりますが、実は、メンバー全員が『火力発電の現場経験者』なんです。私や松山さんもO&Mに携わっていた時期があるんですよ。現場から変えていきたいという共通の想いを持っているからこそ、一丸となって進むことができるんです」
松山「これまでメンバーとのディスカッションや他社の視察を半年ほど重ねてきました。みんなで目指すべきビジョンや課題を共有できるようになりましたし、少しずつ実現に近づいている手応えがあります」
オーストラリア視察で発見! デジタル技術を活用したワークスタイルの多様性
―デジタル技術を活用した多様なワークスタイルを導入している、オーストラリアのLNG(液化天然ガス)プラントの視察にも参加されたそうですね、詳しく聞かせてください!
松山「はい。オーストラリアにあるWoodsideEnergy社がO&Mを担うLNGプラントでは、デジタル技術を活用し日本とは全く違う働き方をしていると聞いて、自分たちの目で実際に現地を視察してきました」
寶滿「WoodsideEnergy社では、オーストラリアのカラサという地域にLNGプラントを持っています。そしてO&M業務の一部を、1,250 km も離れたパースにある本社から遠隔で行っているんです。そうすることで、一部の社員は『数週間カラサで働いた後に数週間パースで休む』といった働き方から、毎日帰宅できる働き方に変わったのだそうです。以前より家族と過ごす時間も確保できるなど、さまざまな家庭環境を持つ社員やその家族にとっても働きやすいワークスタイルに改善されていました」
―そのほかに、今回の視察で発見したことはありましたか?
松山「LNGプラントで活用するロボットの開発環境が素晴らしかったです! WoodsideEnergy社はラボを本社内に持っていて、さらに実証試験を現地プラントで行えるなど、ロボットの開発から導入まで自社でまかなえるようになっているんです。自社のニーズに適したロボット開発が社内で一貫して行える環境の充実ぶり、そのスピーディさは正直うらやましかったですね」
寶滿「開発中のロボットについて質問をしたら、目を輝かせて『これも見てくれよ!』『操作してみるか!?』とスタッフがイキイキと働いている姿も印象的でした」
松山「そうそう、本当に楽しそうに働いてましたよね!」
2030 年代 、「O&M3.0 〜データもココロも繋がる発電所〜」へ!
―これまでのワークショップや海外視察を経て、ついに火力部門の未来予想図「O&M3.0」が決まったそうですね!
寶滿「はい! 2000年頃に、電力自由化開始によってコスト構造が変わり、運用保守の考え方も変化していきました。これをO&M2.0への転換期と捉えて、さらに次の時代の変革をーと考えたのが『O&M3.0』です。2030年代に『こうなっていたらいいな』という将来像から逆算して、それらを達成するために必要なアクションや技術を洗い出して作成しました」
―「データもココロも繋がる発電所」とは、どういう意味ですか?
松山「技術や情報・データを関係者全員でリアルタイムに蓄積・共有することで、人や組織に帰属しないシームレスな業務連携を目指します。それが実現することで、社会の変化にしなやかに対応し、成長し続けることもできるようになるはずです」
―どのようにO&M3.0を実現するのでしょう?
松山「実現に向けた取組みは、すでに始まっています! 私の部署では、さまざまな運転データを収集・活用して設備の異常をAIが早期に発見してトラブルを未然に防止するシステムの導入を一部スタートしています。AIが予測した結果を人による判断で補完すれば、限られたリソースを最大限に活用できる運用システムが組めます。そして重要なのは、どれだけ技術が発展しても人による最終判断は残すということ。そのような観点からも、O&M3.0の実現には、技術を伝承する人財の確保とやりがいを持って長く働ける環境、その2つが重要だと考えています」
寶滿「そのほかの取組みも進んでいますが、『状況に応じて柔軟に対応する力』が求められると思います。既存の考えを大事にしつつもとらわれすぎず、発生した事象に対して最善の解決案を迅速に実行できる組織でありたいですね。特に私が関わる脱炭素の取組みは国際的な課題であり、現在進行形で技術開発や各国の政策検討がされています。ゲームチェンジがいつ起きてもおかしくない状況で、常に柔らかい頭と軽いフットワークを維持できるか、私自身も挑戦しながら日々の業務にあたっていきたいです」
―最後に、お二人が描く、火力発電O&Mの未来像を教えてください!
寶滿「当社においても勤務制度としてフレックスやテレワークが導入されていますが、さらにデジタル技術を活用することで、火力発電所における働き方改革をもう一歩前進させて、より柔軟な働き方ができたらいいなと思います」
松山「今、エネルギー問題や地球温暖化、人口減少など将来に行き詰まりを感じるニュースが多いですよね。2030年代にO&M3.0が実現できたら、それより先の将来には、火力部門において今の想像を超えるような働きやすい職場環境になっていると思うんです。O&M3.0にもあるように、どのようなバックグラウンドを持った人でも活躍できる、やりがいを持って働ける火力部門を次の世代に残したいです」
2030年は、通過点に過ぎません。さらに先の未来を見据えて、「BVC2030」は関西電力の火力部門を現場から変革していきます。
みかりん
グループの垣根を超えて、次世代の火力発電所に向けて発電設備だけでなく、未来を見据えて働き方もアップデートしていく火力部門を、他部門も見習いたいですね!!