都市部を中心に対応エリアを広げている、次世代通信システム・5G。日々の暮らしや社会に大きな変化をもたらすと期待されているものの、「何がどう変わるのか、まだ実感がわかない」という方も多いのではないでしょうか。関西電力では、いま産業界で注目を集める「ローカル5G」と「洋上風力発電」を組み合わせたプロジェクトを始めています。どのような取組みか、この記事では映像もあわせてお届けします!
動き出す、ローカル5G
まずは、「5G(第5世代移動通信システム)」について簡単にご紹介しましょう。5Gの主な特徴は「超高速」「大容量」「低遅延」です。通信速度は最高で10Gbps、これは現在主流の4Gに比べて10~100倍の速さ。2時間の映画をたった3秒でダウンロードできるといわれています。遅延もほとんどなく、リアルタイムで大きなデータのやりとりが可能です。
次に、初めて聞く方も多い「ローカル5G」をご紹介します。5Gは、通信事業者(キャリア)が全国の契約者に提供しているサービスなのに対して、ローカル5Gは企業や自治体が独自の回線を構築し、限られたエリア内だけで使用するものです。
なぜローカル5Gが必要なのでしょうか?そのメリットは3つあります。
①柔軟なシステム構築:通信事業者による5Gサービスがまだ開始していないエリアでも、5G環境を構築できます
②通信障害の回避:通信事業者の回線で通信障害が発生しても、ローカル5Gは影響を受けません
③セキュリティ確保:自社の機器だけが接続できるため、不正アクセスを防ぎます
関西電力では、2022年6月からローカル5Gを活用して風力発電の設備利用率を向上させるプロジェクト(※)に参画しています。ローカル5Gがどのように風力発電と関わっているのか、そして社会はどう変わるのか、ここからは担当の尾花佳彦に詳しく聞いてみましょう。
(※)「ローカル5Gを活用した風力発電の設備利用率向上によるカーボンニュートラル社会の実現」令和4年度・総務省「課題解決型ローカル 5G 等の実現に向けた開発実証」に採択
再生可能エネルギーとして期待が高まる洋上風力発電
―さっそく、プロジェクト内容を……とその前に、「洋上風力発電」を初めて知る人も多いと思います。一般的な風力発電との違いを教えてください!
尾花「簡単に言うと、一般の風力発電と仕組みは同じで、『洋上』つまり海の上で発電するのが洋上風力発電です」
尾花「風力発電はCO2を出さない再生可能エネルギーの一つですが、発電効率を高めるには、どうしても風車の羽根(ブレード)を大きくする必要があるんです。ブレードを大きくするとなると、建設エリアへブレードを輸送する際にルート制限が生じてしまいます。また、風切り音や景観への影響、環境面へ配慮する必要があり、地上で設置する場所は限られてしまうんです……」
―なるほど、それで洋上へ!
尾花「はい。洋上ではこれらの制約がなく、ブレードが大きな風車を設置することができます。また、安定して風を受けられる点も風力発電に向いています。なので、地上の風力発電よりもさらに効率が良い再生可能エネルギーとして期待されているんですよ!」
再生可能エネルギーや風力発電についてもっと知りたい方は、こちらの記事がおすすめです!
洋上風力発電はいいことだらけ? 実はメンテナンスに課題が
―メリットが多そうな洋上風力発電ですが、デメリットは?
尾花「風力発電は、メンテナンスコストが高いのが難点なんですよね……。とても背が高い建物なので雷が落ちやすく、落雷後は安全が確認できるまで運転できません。メンテナンス作業は特殊な高所作業なので、許可を受けた技術者しか携われないですし。特に洋上風力発電では、悪天候によるアクセス制限を受けてメンテナンス要員を乗せた船を出港できなかったり、海風による塩害(塩による腐食、さび)が発生したりします」
洋上風力発電はいいことだけではなく、保守面での課題が残っているようです。これからさらに洋上風力発電を増やすために、メンテナンスコストを抑える方法がないのか尋ねたところ、ついにあのキーワードが出てきました。
尾花「実はその切り札の一つが『ローカル5G』なんです!」
洋上風力発電は、ローカル5Gでどう変わる?
尾花「関西電力が参画しているコンソーシアム(共同事業体)で、ローカル5G技術を活用したメンテナンスシステムを共同開発したんです。高画質カメラを搭載したドローンを飛ばし、風車の点検画像を1秒ごとに撮影・送信するもので、離れた場所からリアルタイムで状況をチェックできるようになりました」
―いままでとは、どのように違うんですか?
尾花「ドローンによる点検自体はこれまでも行われていました。ただ、撮影画像はSDカード等に保存されていて、ドローンを一度陸上に戻さないと確認できませんでした。撮影に失敗していたらもう一度飛ばす必要があり、ものすごく手間がかかっていたんです……。点検の間は風力発電機を動かせないので、その分、ダウンタイム(風車が稼動していない時間)が増え、発電効率の低下を招く原因となっていました。一方、ローカル5Gによるリアルタイム撮影なら、安全確認のスピードがアップしてすみやかに発電再開につなげることができます」
実証実験の様子を見てみよう!
2022年12月に、秋田県秋田市の海沿いにあるユーラス秋田港ウィンドファームで実証実験を行いました。
ローカル5G実証事業 作業風景
youtu.beこちらが実証実験の様子です。真冬の秋田、強風の中、雪がちらついて本当に寒かったです!そんな過酷な天候でもドローンなら出動できます。
ドローンで撮影した映像がこちらです。
強風と聞いていましたが、安定した撮影ができていますね。
尾花「この画像は5000万画素なので、拡大してもシャープにはっきりと見えるんです。その分データ容量も1枚当たり25MBと大きくなりますが、ローカル5Gなら問題なし!リアルタイムで送信できます」
―とても頼もしいシステムですね!今回の実証実験が成功したポイントを教えてください。
尾花「ローカル5Gは免許を持つ事業者しか開設できません。そこで今回はローカル5G等の導入・運用実績がある秋田ケーブルテレビさんがプロジェクトを統括し、関西電力はユーザー代表として洋上風力発電にローカル5Gを導入するための課題と対策の検討などを担いました。
ローカル5Gネットワーク環境の構築はNECネッツエスアイ株式会社さん、ドローン技術の提供は関西電力のグループ会社である株式会社Dshiftさん、
実証実験の評価は東京大学で専門の研究をされている先生に依頼するなど、8団体の得意分野を集結させることで、順調に進み、未来への希望を見出せたと思います」
尾花「また、ローカル5Gの環境構築には、やはり初期コストが大きくかかります。この事業は総務省の『課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証』に採択され、助成金を受けることで実現しました。ローカル5Gでさまざまな課題が解決できる社会の実現へ向けて、国からの力強いバックアップをいただきながら本実証を進めています」
ローカル5Gと洋上風力発電で、カーボンニュートラル社会の実現へ!
尾花「今回の取り組みで、ローカル5Gとドローンによるメンテナンスが実際の現場で十分活用できると実証できました。さらに飛行時間を伸ばし広範囲をモニタリングできるよう、エンジンを搭載したドローンを使用することも検討中です。この技術を多くの風力発電所が取り入れたら、風力発電の稼動率を向上させ、収益を増加させることが可能です。収益性を向上することができれば、風力発電の開発もより進むと思います。企業や自治体が持つ技術や強みを集結すれば、カーボンニュートラル社会の実現もそう遠くはないと確信しています」
目には見えづらいけれど世の中を大きく変える力をもつ通信と発電。新技術を組み合わせ、カーボンニュートラル社会に向けた一歩を踏み出しています。