そもそも、「揚水発電」って?
― 揚水発電を初めて知る人も多いと思います。一般的な水力発電とは何が違うのか教えてください!
正岡「一般的な水力発電では、ダムで川の水をせき止め、貯めた水を一気に落としタービンを回すことで発電します。発電に使った水はそのまま下流に流れていくのですが、この水を何度も循環させて発電に使うのが、揚水発電の特徴です」
正岡「だから、揚水発電には、上部と下部にそれぞれダムがあるんですよ。電力使用のピーク時に上のダムから水を落として発電。そして、夜間など電力使用に余裕がある時間帯に下から上のダムへポンプで送って水を戻します」
― なるほど、水のリサイクルですね!
正岡「実は、奥吉野発電所がある川の水量は多くないんです。その代わりに、傾斜が急なので落差を有効活用できます。そこで水を循環させて発電する揚水方式が選ばれました。地域にあわせて最適な発電方法が選択されているんですよ」
― ダムの水が少ないような……発電には十分な水量なんでしょうか?
正岡「いいところに目をつけましたね! 水力発電は、水を高いところから低いところへ落とす高低差を利用して発電します。もし、下にある旭ダムが満水だった場合は32mも水位が高くなります。その分だけ高低差も小さくなり、発電効率が下がってしまう。だから、発電する時間帯は、旭ダムの水位を下げておくんです」
― なるほど! ちなみに、上のダムから下のダムまではどのくらいの高低差があるんですか?
正岡「奥吉野発電所の最大有効落差は526m。これは日本最高クラスなんですよ!」
「すごいスケール感! 発電所の中も気になります!」
いざ、揚水発電所の内部へ!
発電設備は地下100mに。地下道を車で向かいます。
「地下ダンジョンみたいでワクワクします!」
建物内部は地下1階から地下5階まで。階段で移動します。
「見たことのない特殊な工具が、オブジェのように整頓されていますね」
奥吉野発電所の心臓部『発電電動機・兼ポンプ水車』に到着!
正岡「発電電動機・兼ポンプ水車は、発電運転時には水車を回して発電する発電機として、毎秒48トンの水で直径3.76mの水車タービンを1秒当たり8.6回転のスピードで回転させ、20万kWの出力で発電します。揚水運転時は電動機を回して水をくみ上げるポンプとして働きます」
正岡「奥吉野発電所にはこの発電電動機・兼ポンプ水車が合計6台あり、最大20万kW×6台=120万kWもの電力を生み出します。
発電所員は、作業員の安全を確保する縁の下の力持ち
― あらためて、発電所員のお仕事について教えてください!
正岡「水漏れ、異音、異臭など、機器の異常がないか点検するのが毎日の業務です。異常を素早く察知するには、『通常時』の状態をしっかり知っておくことが大切。その上で、いつもと異なるところはないか、五感を働かせながらしっかり確認します!」
― どのような点にやりがいを感じていますか?
正岡「奥吉野発電所は発電出力が大きく、あらゆる機器が大型です。バルブを調節するハンドルもまるで船の舵のようで……安全管理も大変です。でも、電気の安定供給を担っているということがやりがいにつながっています」
子どもの頃、ゲーム機や家電など身の回りのものが電気で動いていることに気づき、「電気は人の生活に欠かせないんだ」と感動したのだそう。社会を支える電力インフラに携わることができて誇りに思うと正岡は語ります。
―奥吉野発電所では、約20年に1度の発電機の停止を伴う大型工事が2022年4月から本格的に始まりましたが、工事関係で大変なことはありますか?
正岡「工事をする前に、その部分に電気が流れないよう回路を停止(ロック)する必要があります。工事の計画書を元に、ロックの場所と手順をメンバーで検討します。今は特に多くの工事が同時並行で行われているので、それぞれが干渉しないようにスケジュール調整だけでも大変です」
― 作業員全員の安全を確保する、責任ある仕事ですね。
正岡「はい! 安全な作業環境を確保するために工事全体を広い視野で確認し、さらに複数の目で何重にもチェックしています」
遠隔操作システム導入に向けて奮闘する工事所員
工事所員である川島は、入社当時から発電所勤務を希望していたそう。
― 入社した頃から発電所勤務を希望していたんですね!
川島「はい!関西電力に入社してから、学生時代に学んだ知識がダイレクトに役立ち、嬉しかったですね。2010年から奥吉野発電所で勤務した後、奈良県吉野エリアの水力発電所の保全業務を担う吉野水力センターへ勤務し、昨年より工事所勤務となりました」
― 発電所と工事所の仕事はどのように違うんでしょうか?
川島「工事所員の主な仕事は、現在進められている大型工事の詳細設計と現場工事の管理、竣工検査です。
特に安全面に対しては大変注意を払っています。発電所と協力会社やメーカーの方など、様々な工事関係者と綿密に打ち合わせを行い、安全で円滑に作業が進むように調整を行っています。また、安全に作業を進めるのに必要な様々な機器の停止や安全措置を発電所の方に実施していただき、安全な作業環境を維持しています」
―約20年に1度の工事となると、かなり大規模なものですね?
川島「この工事は通常の定期メンテナンスだけでなく、発電所のコントロールシステムの大型アップデートも含まれているんです。工事の目的は二つあって、一つは故障するリスクが高い装置を入れ替えること。発電所は社会インフラなので、故障で止めるわけにはいきません。壊れる前に新しいものに取り替えます。その際、今まで以上に安定性の高いシステム設計にすることで、よりメンテナンスしやすくなります。
もう一つは、遠隔操作システムの導入。今はこの奥吉野発電所から、発電や揚水などの運転操作をしていますが、遠隔操作システムが入ったら大阪市内の総合水力制御所から操作することが可能になります」
― 仕事のモチベーションになっているものは?
川島「変電所や発電所など、さまざまな業種を経て現在の工事所に配属されました。だからこそ、広い視野で工事を見通せるようになったと成長を実感しています。それに、発電という仕事に強い責任と矜持を持っているんです」
発電に携わることへの責任を強く実感したのは、2011年9月に発生した台風12号の被害がきっかけだといいます。
川島「当時、奥吉野発電所の周辺でも土砂崩れが発生し、車道は通行止めになりました。停電復旧のために寮から片道2時間歩いて通勤していたある日、住民の方に呼び止められました。そしてこうおっしゃったんです。『関電さん、電気が止まってしまったから、(在宅人工)呼吸器が使えないんよ、息がしにくいんよ』と。このとき、自分が携わっているのは人の命を預かる本当に重要な仕事なんだ、電気は止めてはいけないんだ、と再認識しました」
揚水発電所が支える、電力の安定供給
―お二人の発電にかける熱い想い、伝わってきました……! 揚水発電の可能性も、まだまだ広がりそうですね。
正岡「以前は電力の需要に合わせて昼間に発電していましたが、最近は快晴の日に太陽光発電から生じた余剰電力を使って、昼間に揚水し夕方から夜間にかけて発電するケースが増えています。電気は作りすぎても供給に悪影響があるので、揚水発電が自然エネルギー発電の調整役として活躍しているんですよ」
川島「発電までの立ち上がりが早く出力が安定しているのも特徴です。運転ボタンを押してから、数分以内に最高出力へ到達します。この特徴を生かして、例えば、昼間は揚水運転、点灯ピーク帯には発電するといった細かな調整を行い、需給と供給のバランスをとり大規模停電等のリスクを回避します」
大停電が起きたら、少ない電力で起動できる揚水発電所がまず始めにスタートして、ほかの発電所へ大量の電力を供給する大切な役割も担っているのだとか。
―揚水発電って、とっても頼もしい仕組みですね。最後にメッセージをお願いします。
正岡「揚水発電所が、電力の安定供給に大きな役割を果たしていると知ってもらえたら嬉しいです。また、電力ひっ迫時には無理のない範囲で節電のご協力をお願いいたします」
川島「今回の大型工事で得た知識や経験を、次の世代に受け継いでいくのも私たちの大切な仕事です。これからも協力してがんばります!」