実は銭湯には「お風呂に入る」という行為以外にもたくさんの楽しみが詰まっているんです。その魅力について、これまで1000軒以上の銭湯を訪れてきたという銭湯大使・ステファニー・コロインさんに伺ってきました。
※この記事は2022年8月30日に公開した内容をアップデートしています。写真は公開当時のものです。
ステファニー・コロインさん
南フランス出身。リヨン大学で日本文学を専攻し、2008年、交換留学のため来日。その際に銭湯と出会いファンとなる。2012年に再来日。以来、銭湯を楽しむ日々を送っている。豊島区浴場組合ホームページで銭湯ナビゲーターを務めるほか、国内外のメディアで銭湯の魅力を発信中。2015年、日本銭湯文化協会より銭湯大使に任命。
フランス生まれのステファニーさんが銭湯にはまったのは、日本に留学をしていたときのこと。フランスにはもちろん知らない人と裸でお風呂に入る文化はなく、日本で初めて銭湯を訪れたのだそう。
日本語も理解できないまま迎えた銭湯デビューでしたが、そこはまさに“裸の付き合い”。常連さんと一緒に身体を洗ったり、お湯に浸かっているだけで、不思議とコミュニケーションが取れたといいます。そこでステファニーさんは銭湯文化の素晴らしさを感じ、あっという間に銭湯の虜になっていったのだとか。
これまで全国のさまざまな銭湯を訪れてきたそうですが、一つとして同じものはないとステファニーさんは話します。「日本の銭湯はほとんどが家族経営なんです。そのため、銭湯の建物や壁、床には運営している家族の人柄や家族が歩んできたストーリーが味となって刻まれているんですよ」
一石三鳥?! 銭湯大使・ステファニーさんが提唱する銭湯の魅力って?
銭湯の魅力について、大きく3つの要素が挙げられます。
まず一つ目は「美容と健康」です。
銭湯にあまりなじみがない人には「自宅のお風呂とどう違うの?」と思われるかもしれませんが、実は銭湯はスパの役割も果たすのだそう。自宅のお風呂が水道水であるのに対し、銭湯では井戸水(もしくは温泉)を使用していることが多いです。そのため、ただお湯に浸かるだけでも、スキンケア後のような効果を得ることができ、湯上がりの肌がしっとりするのだとか。
また、自宅のお風呂に比べて、銭湯の浴槽は広くて深いため、手足を伸ばしながらゆっくりと入浴することができます。たっぷりのお湯に包まれることで絶大なリラックス効果が期待できるのだそう。「お湯の音や桶の音も心地よくって、瞑想を行っているような気分になるんですよね」とステファニーさん。銭湯に行った後は、自然と悩みやモヤモヤがすーっと軽くなるのだとか。
二つ目は「コミュニティ」です。
「はじめは日本語が分からないから、挨拶をするところから始まりました。毎週通っているうちに、オーナーさんや常連さんにも声をかけてもらえるようになっていって、気が付いたら私もコミュニティの一員になっていました」とにっこり。ステファニーさんにとって、銭湯に行くこと=人に会いに行く という感覚だといいます。お湯上がりに脱衣所でドリンクを飲みながらオーナーさんや常連さんと話す時間も、水分補給以上の癒しの効果がありそうですよね。
そして三つ目に、最近若者の間でも少しずつブームになりつつあるのが「銭湯アート」です。
基本的に銭湯内は撮影NGのため、普段はあまり表に出ることがない銭湯アート。
そもそも銭湯アートとは何のことでしょうか?
「銭湯には壁や床に施されたタイルや、ネオンの看板、オリジナルの暖簾に、ポップな下駄箱など、目で見ると美しい、楽しい要素がたくさん。それはまさにアートの世界なんです!」
銭湯は「お風呂に入りに行く」という機能を果たす場所ですが、少し目線を変えてこういったアートを見つけるのも銭湯に行く楽しみになるとステファニーさんはいいます。
ここが面白い! 関西の銭湯
一口に銭湯といっても、実は関西と関東で異なる特色があるようです。
「大きく異なるのは湯船の位置です。関西は浴場の中央に湯船がある一方、関東では浴場の奥に湯船があることが多いんですよ」
確かに写真などを見てみると、関西の銭湯と関東の銭湯では湯船の位置が全然違います!
「あとは、かけ湯をするときに桶を湯船に入れてお湯を汲んだり、浴室と脱衣場の間に身体を拭けるスペースがあったりするのは関西独自の銭湯文化ですね」
また、浴場の壁に描かれている絵といえば「富士山」を想像する方が多いと思いますが、これは関東でよく見られる銭湯アートで、関西ではこれが動物や建築物になるのだとか。ペンキ絵ではなく、モザイクタイルで描かれているというのも関西の銭湯ならではの特徴のようです。
銭湯が庶民文化のひとつだったからこそ、地域性が色濃く出ているのですね。
ステファニーさん厳選! 面白くてかわいい関西の銭湯3選
全国津々浦々さまざまな銭湯を巡ってきたというステファニーさんですが、関西にもお気に入りの銭湯がたくさんあるということで、今回は面白くてかわいい関西の銭湯を3つ厳選していただきました。
【休業中】ペールブルーの外観に心をくすぐられる昔ながらの銭湯「扇湯」
ステファニーさんが関西に来た際には必ず訪れるというのが淡路島にある「扇湯」です。淡い水色の外観が印象的なこちらの銭湯。中に入ると、床、壁、浴槽と見渡すかぎりタイルで埋め尽くされており、浴室中央には卵型の浴槽が。
常連さんの多くは、その浴槽を囲むように設けられている腰掛けに座り、おしゃべりを楽しみながら浴槽のお湯で身体を洗うのだそう。
「身体を洗いながらお話しているうちに、知らない人でもあっという間に仲良くなれるんです。心も身体もリフレッシュしたあとは、併設している立ち飲み屋『ふろやのよこっちょ』にも寄ってみてください。銭湯のあとにいただく淡路島ハイボールは最高ですよ!」
スポット | 扇湯 |
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住所 | 兵庫県淡路市岩屋1390 |
まるで動物園?! 壁面アートがかわいすぎる「明月湯」
「ここは日本で一番かわいい銭湯だと思います」とステファニーさんが紹介してくれたのは、兵庫県明石市にある「明月湯」。この銭湯の特徴といえば、なんといってもモザイクタイルで彩られた浴室の壁面です。
「猿や象、うさぎなど、さまざまな動物がモザイクタイルで描かれているんです」と、まさにいるだけで楽しくなるような空間!
脱衣所や洗い場の床なども細かいモザイクアートが施されていて、オーナーさんの銭湯に対する並々ならぬ愛情が感じられます。常連さんだけでなく、銭湯好きの若いお客さんも多いそうなので、銭湯デビューをしたい人にもおすすめです。
スポット | 明月湯 |
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住所 | 兵庫県明石市日富美町14-17 |
開館時間 | 13:30~21:00 |
休館日 | 月曜日 |
電話番号 | 078-914-0833 |
床のアーガイル柄がおしゃれな銭湯ファンに愛される「白浜温泉」
女将さんが一人で運営している「白浜温泉」は全国から銭湯ファンが訪れるという創業約70年の歴史ある銭湯。2011年に風呂釜が壊れ、一度は廃業の危機に陥ったものの、どうしても存続してほしいという常連さんたちの声に応え、奇跡の復活を遂げたのだそう。「いまも遠くからいろんな人が手伝いにきたり、床のタイルを貼りにきたりと、たくさんの人に支えられながら営業を続けているそうですよ」とステファニーさん。
こちらの銭湯を訪れたら、ぜひチェックしてほしいのが浴槽の床。赤・白・緑を基調にしたアーガイル柄のモザイクタイルが施されているんです。なんともおしゃれですよね。
番台ではオリジナルTシャツやクリアファイルなども販売されているそうなので、ぜひチェックしてみてくださいね。
スポット | 白浜温泉 |
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住所 | 兵庫県姫路市白浜町甲840-10 |
開館時間 | 16:30~20:30 |
休館日 | 日・水曜日 |
電話番号 | 079-245-0375 |
昔ながらの銭湯で昭和レトロを感じよう
実際に行ってみないと中が見えない分、ハードルが高くなりがちな銭湯ですが、近年ではSNSを使って浴槽や脱衣所の様子を発信する銭湯も増えてきているようです。
見た目のかわいさから入るもよし、健康維持のために始めるもよし。いちど暖簾をくぐってみると、そこには身も心もリフレッシュできる素敵な空間が広がっています。
「コーヒー一杯の価格で、心身ともに健康になるだけでなく、人とのふれあいや芸術も楽しむことができる。銭湯はとっても豊かなワンコインの使い道だと思っています」とステファニーさんは語ってくれました。
けいちゃん
まるで昭和にタイムスリップしたみたいでしたね!普段何気なく入っているお風呂も、非日常感を加えるとリラックス効果をアップできそうです。