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日本の工芸をベースにした幅広い生活雑貨を展開するクラフトショップ「中川政七(なかがわまさしち)商店」が手がける奈良の新名所「鹿猿狐(しかさるきつね)ビルヂング」。その楽しみ方や魅力を現地よりリポートします。

※この記事は2022年6月28日に公開した内容をアップデートしています。写真は取材当時のものです。

奈良の新名所「鹿猿狐ビルヂング」

「中川政七商店」のシンボルマークである鹿、「猿田彦珈琲」の猿、「㐂つね(きつね)」の狐と、入居する3つのお店にまつわる動物の名前を取って名づけられた「鹿猿狐ビルヂング」。

動物たちの名前を冠した、ユニークなネーミングが特徴的なこちらの施設では、「買う」「体験する」「学ぶ」「食べる」など、さまざまな角度から奈良の魅力を感じることができます。

画像: 奈良の新名所「鹿猿狐ビルヂング」

元々、このならまちにあった中川家の母屋と蔵に加え、新たに建てられた近代的な建物が中庭で繋がっており、「中川政七商店 奈良本店」のほか、カフェやレストラン、コワーキングスペースなどで構成されています。

近代的な建物や話題の人気店が勢揃い!

旗艦店「中川政七商店 奈良本店」

画像1: 旗艦店「中川政七商店 奈良本店」

一番大きなスペースを占めるのが、創業の地に満を持してオープンした旗艦店「中川政七商店 奈良本店」です。大きな窓から光が降り注ぐ明るい店内には、いまの生活に寄り添う暮らしの道具がずらりと並んでいます。

画像2: 旗艦店「中川政七商店 奈良本店」

「生まれも育ちも奈良だったので、いつかは奈良の魅力を発信したいなという思いがあったんです。ここにはユニークな体験なども用意しているので、ものづくりの楽しさを体で感じていただければなと思っています」と店長の村田さん。

また鹿猿狐ビルヂングには、東京発の人気店「猿田彦珈琲」や「㐂つね」が一角に入居していることでも話題です。

スペシャリティコーヒー店「猿田彦珈琲」

1階には、「たった一杯で、幸せになるコーヒー屋」をモットーに、東京 恵比寿にて創業したスペシャルティコーヒー専門店「猿田彦珈琲」があります。鹿猿狐ビルヂングが、奈良県初出店です。

すき焼きレストラン「㐂つね」

同じく1階にあるのが、東京・代々木上原にある、ミシュランガイド東京2020年から3年連続一つ星掲載店の「sio」が手がける、すき焼きレストラン「㐂つね」です。

コワーキングスペース「JIRIN」

建物の3階にはコワーキングスペース「JIRIN」があり、ドロップインでも利用することができます。広い窓からは興福寺の五重塔を眺められる心地の良い空間です。

と、ここまで羅列されているだけでも十分見どころ満載な鹿猿狐ビルヂングですが、最大限楽しむにはぜひ「学んで」「体験して」みてほしいのです。ここからは鹿猿狐ビルヂングの魅力の本質に迫っていきます。

古きから学ぶ、にほん

画像: 古きから学ぶ、にほん

なんといっても鹿猿狐ビルヂングの最大の魅力は「いにしえの工芸と触れる」こと。この体験ができるのが、「中川政七商店 奈良本店」やカフェ、レストランなどが入った建物から中庭を抜けた先にある古い建物です。

意匠を凝らした築130年の母屋

画像1: 意匠を凝らした築130年の母屋

元々は中川家の住まい兼商いの場だったという風格たっぷりのこちらの建物。中川政七商店(旧 遊中川(ゆうなかがわ) 本店)の建物として使われている母屋は築130年余と、長きにわたりこのならまちを見守り続けてきました。

画像2: 意匠を凝らした築130年の母屋

300年以上の歴史がある中川政七商店。享保元年(1716)、当時人気を博していた奈良晒(ならさらし)の商いを始めたそう。奈良晒とは、奈良で16世紀より生産されてきた高級麻織物で、当時は武士の裃(かみしも)や僧侶の法衣(ほうえ)として使われていたのだとか。

画像3: 意匠を凝らした築130年の母屋

中川政七商店(旧 遊中川 本店)には、中川政七商店の原点である手績み手織りの麻を使ったバッグや小物類、洋服などがずらりと並んでいます。

画像4: 意匠を凝らした築130年の母屋

手仕事のアイテムを手に取ってみるのはもちろんですが、かつての佇まいを活かした建物を見て回るのもおすすめの楽しみ方。たとえば、天井に目を向けてみると、突っ張り棒のようにかけられた竹の竿が。これは、奈良晒を検品するために使われていたものだそう。

画像: 一家に一台電話がない時代、当時は近所の人たちもここに電話をかけに訪れていたそう。

一家に一台電話がない時代、当時は近所の人たちもここに電話をかけに訪れていたそう。

店内にはまだまだ面白いものが。試着室をよく見てみると「電話 2222番」の文字が。実はこの試着室、元々この場所にあった電話ボックスがちょうどいい大きさだったということでそのまま活用しているのだそう。番号が「2222」になっているのには「このあたりで2番目に電話番号を取得した」とのいわれもあるのだとか。新しいことにどんどん挑戦する姿勢が印象的な中川政七商店ですが、その姿勢は昔から変わっていないんですね。

画像5: 意匠を凝らした築130年の母屋

店の外には奈良の古民家で見られる格子を発見。これは何なのか聞いてみると、「鹿よけ」とのこと……!
奈良といえば鹿というイメージが強いですが、実はかなり昔から奈良にいるそうなんです。
春日大社に祀られている神様が白い鹿に乗ってやってきたという伝説があり、750年に作られた万葉集には実際にこの地に鹿がいたことが記載されています。

奈良時代から奈良に生息している鹿は、奈良公園のみならず、人通りの少ない夜間などには街中まで鹿がやってくることがあります。
「鹿よけ」は鹿が間違えて建物にぶつかってケガするのを防ぐ役割があるそうで、一部には100年以上前の吉野杉が使われているとも。
「建物が傷むのを防ぐ」だけではなく「鹿が怪我するのを防ぐ」のがその理由に挙げられるあたり、奈良の人々が鹿を大切にしていることがよくわかります。
奈良の町がそんなに昔から鹿と共存していたと思うと、なんだかノスタルジックな気持ちになりますよね。

画像6: 意匠を凝らした築130年の母屋

レジ横に展示されている、1925年のパリ万博に出展した証書と麻のハンカチーフ。手績み(てうみ)・手織りの生地に、鳥草木紋が手刺繡で施されています。現在も5枚現存しており、その内の1枚を見ることができます。

画像7: 意匠を凝らした築130年の母屋

ほかにも当時の名残を感じられるものがたくさん隠れているので、ぜひ探してみてくださいね。

まるでタイムスリップ!? 「布蔵(ぬのぐら)」で手績み手織り麻体験 

中川政七商店の歴史がわかってきたところで、実際にいにしえの工芸に触れてみましょう。

画像: 重厚感漂う蔵の外には職人たちが使っていた靴箱が今も残っている

重厚感漂う蔵の外には職人たちが使っていた靴箱が今も残っている

まず向かったのは「布蔵」。パッと見ると隣の民家に繋がっているように見えるのですが、まさにこの先が「鹿猿狐」の本質。勇気を出して足を踏み入れましょう。
この蔵には中川政七商店の原点である麻にまつわる道具や布が保管されています。

画像1: まるでタイムスリップ!? 「布蔵(ぬのぐら)」で手績み手織り麻体験

一歩足を踏み入れると、そこにはまるでタイムスリップしたかのような空間が! 今回はこの布蔵にて週末限定で開催されている「布蔵体験~手績(うみ)手織り麻のものづくり~」に参加してみました。

画像: 麻のものづくりの歴史や工程をレクチャーしてくれた講師の荻田さん

麻のものづくりの歴史や工程をレクチャーしてくれた講師の荻田さん

画像: 麻製品を作る全体の工程のうち「今からやるのはこの部分」と説明してもらいました

麻製品を作る全体の工程のうち「今からやるのはこの部分」と説明してもらいました

最初に手績み手織り麻ができるまでの工程を学んでいきます。糸を績むという“糸そのものを作る”ところから始まる麻のものづくり、機織機(はたおりき)で織るまでに気が遠くなるような工程を踏むため、機織機で織るのは全行程の1割ほどだそう。

手作業で行う麻のものづくりは、熟練の方でも1疋(ひき・約24m)の生地を織るのに10日間ほど、さらにその生地を織るのに必要な糸を績むのに24日間ほどの時間を要するのだそう。そう思うと、少々値段が張るのも納得ですよね。

それでは、まずは麻を績んで糸にしていきます

画像: 麻のものづくりにおいてとても重要な“績む”という作業。ほぐして水で濡らした麻を指先でねじりながら少しずつ繋げていきます。

麻のものづくりにおいてとても重要な“績む”という作業。ほぐして水で濡らした麻を指先でねじりながら少しずつ繋げていきます。

画像: 「へそくり機」という木製の道具を使って、績んだ糸をぐるぐる巻きにしていきます

「へそくり機」という木製の道具を使って、績んだ糸をぐるぐる巻きにしていきます

画像: 大正時代から使われているこの機織機も現役

大正時代から使われているこの機織機も現役

画像: 昔の女性の体形に合わせて作られている機織機は座ってみると意外とコンパクト

昔の女性の体形に合わせて作られている機織機は座ってみると意外とコンパクト

先生に教わりながら、実際にチャレンジ。先生のお手本を見て「意外と簡単そう」と思ったのも束の間、手と足で違う動作をするこの作業はかなりコツが必要で、全くリズミカルに織ることができません。緯糸(ぬきいと・横の糸のこと)を経糸(たていと・縦の糸のこと)の間に通す作業もなかなか思うようにいかず、ひと苦労。5列ほどできた! と思って見てみても、布の長さはほとんど変わっておらず……。

麻のものづくりは想像をはるかに上回る時間と労力がいる仕事だということを、身をもって学ぶことができました。

画像2: まるでタイムスリップ!? 「布蔵(ぬのぐら)」で手績み手織り麻体験

あまりなじみのなかった麻のものづくりですが、こうやって体験してみると新しい発見がたくさん! さっきまで何気なく見ていた麻のポーチやバッグがこんなに手間をかけて作られているのだと思うと、商品によって異なる風合いも個性だと思えて愛おしくなりますね。布蔵体験をした後は、非売品の手績み手織り麻のポーチをもらえるそうなので、こちらもお楽しみに。

布蔵体験~手績み手織り麻のものづくり~
実施日Webサイトにて要確認
時間①10:30~11:30 ②13:00~14:00 ③14:30~15:30
料金3,850円(税込)
定員各回4名

過去から未来へ。「時蔵(ときぐら)」で歴史に触れる

画像1: 過去から未来へ。「時蔵(ときぐら)」で歴史に触れる

最後に訪れたのは「時蔵」です。ここは中川政七商店の300年の歴史がアーカイブされた蔵で、貴重な資料が展示されています。

壁一面に配された年号を記した桐箱の引き出しには、これまでの300年間と今後の100年をアーカイブとして残せるようになっており、社員の皆さんが取り組んだ渾身の仕事を収めていくのだそう。ちなみに布蔵体験で私たちが織った布も、こちらに保管されます。自分が歴史の一部になっていくようで、なんだか感慨深いですね……!

中川政七商店の歴史、といっても、生活に寄り添う工芸品を作り続けている彼らの歴史は、そのまま日本の文化の歴史といえます。

画像: ついじっくり細かく見てしまう屏風。よく見ると「中川政七さん」を発見……!

ついじっくり細かく見てしまう屏風。よく見ると「中川政七さん」を発見……!

時蔵の2階には過去から未来への工芸の変遷を描いたクロニクル屏風が。地産地消が当たり前だった時代から、大量消費の現代へと絵柄が変わっていきます。
よく見ると、時代が経つにつれて、生産者と消費者の距離がどんどん離れていく様子が分かります。本来、工芸品とは生活に役立つものだったはず。

画像2: 過去から未来へ。「時蔵(ときぐら)」で歴史に触れる

「現代では、ひとつの商品を作るのにどれだけ手が込んでいるのか、どんな人が作っているのか、高価な商品があってもなぜ価格が高いのかが分かりにくい構造になってしまっています。さらに大量生産によるものの低価格化も進み、工芸品の価値がますます伝わりにくくなっている」と中川政七商店広報の木原さん。

「そんな時代だからこそ、中川政七商店では、昔のように生産者と消費者の距離を縮めるために、さまざまな取り組みを行っています。お客さまにものづくりを体験していただいたり、ものづくりの現場を見ていただいたりすることで、商品に愛着が湧くなど、手に取るきっかけになるのではないか。そんな思いで生まれたのが鹿猿狐ビルヂングです。見る、体験する、食べるなど、五感を使って奈良を感じてみてください」

時蔵は、スタッフに声をかければいつでも入れるので、ぜひ日本のものづくりの歴史と未来にかける思いに触れてみてくださいね。

古さと新しさが融合した、奈良文化の発信地

画像1: 古さと新しさが融合した、奈良文化の発信地

近代的な建築と元からこの土地にあった古い建物を融合させた「鹿猿狐ビルヂング」。おしゃれで近代的な建物ですが、実は鹿よけの格子をモチーフにしたデザインになっていたり、屋根が瓦になっていたりと、奈良の街並みに溶け込むような工夫がされているんです。

話題の店舗が出店したり、コワーキングスペースが新たなビジネスを生み出す拠点になっていたりする一方、長い間守り続けられてきた母屋や蔵では300年にわたる中川政七商店の歴史や伝統が脈々と語り継がれています。

それぞれの建物を行ったり来たりしていると、古と現代を行ったり来たりしているような気持ちになり、そこに共通する“大切にしているもの”を実感できます。

画像2: 古さと新しさが融合した、奈良文化の発信地

「古いものを大切にしながら、新しい文化を融合される」という考えが具現化された「鹿猿狐ビルヂング」。“古くて新しい奈良のものづくり”が凝縮したこの施設で、奈良の魅力に触れてみませんか。

スポット鹿猿狐ビルヂング
住所奈良県奈良市元林院町22番
Webhttps://nakagawa-masashichi.jp/shikasarukitsune
画像4: 古くて、新しい!奈良の新名所「鹿猿狐ビルヂング」の楽しみ方

こうちゃん

実は過去奈良県民だった私ですが、奈良はここ最近、本当に目覚ましく発展したなぁ、としみじみ感じます。古都とモダンの雰囲気が融合した鹿猿狐ビルヂングに行ってみましょう!

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