最近、ニュースなどで話題の「MaaS」。そもそもMaaSとはいったい何なのか。また、MaaSによって私たちの暮らしがどう変わるのか、興味がある人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、MaaSとは何か、具体例を挙げながらわかりやすく解説します。また、日本で行われているMaaSの取組み事例も紹介します。この記事を読めば、話題のMaaSについて理解を深めることができるでしょう。
MaaSとはITの力で交通サービスを便利にする取組み
MaaSとは「Mobility as a Service」の略で「マース」と読みます。日本語では「サービスとしての移動」と訳されます。ICT(情報通信技術)によって、バスや電車、タクシー、飛行機といった複数の交通手段を最適に組み合わせて(統合して)、検索・予約・決済などを一括して行うことができるようにするサービスの総称です。マイカーはMaaSの対象には含まれません。
異なる交通手段をよりスムーズに利用できるようになれば、地域や観光地などでの移動がもっと便利になるでしょう。また、地域にすでにある公共交通機関をより効率的に活用したり、外出の機会が増えることで地域活性化につながったりすることも期待されています。このように、MaaSは地域の課題解決にも役立つと考えられているのです。
MaaSの5つの統合レベル
国土交通省では、MaaSのレベルを5段階に分けています。これは、スウェーデン・チャルマース工科大学の Jana Sochor氏が定義したレベル分けです。それぞれのレベルの内容は次のとおりです。
レベル0:統合なし
バスや電車、タクシー、飛行機といった複数の交通手段がそれぞれ別々のサービスとして利用されている状態です。これまでの交通手段のあり方がこれに該当します。
レベル1:情報の統合
複数の交通手段に関する料金や時間、距離などを検索できるような状態です。近年は、バスや電車、飛行機などの交通手段を組み合わせて、目的地までの運賃や所要時間などを計算できるようなアプリなども登場しています。
レベル2:予約・決済の統合
目的地までの複数の交通手段を一括して予約・決済できる状態です。
レベル3:サービス提供の統合
目的地までの複数の交通手段を組み合わせたものは一つのパッケージとして商品化され、消費者はさまざまな商品を比較・検討できるようになります。これによって、交通手段がサービスと捉えられるようになり、競争が生まれることでサービスが高度化すると考えられます。
レベル4:政策の統合
サービスとなった複数の交通手段が街づくりに生かされるなど、MaaSが政府や自治体の施策と統合された状態です。必要に応じて、ヒトやモノの流れをコントロールすることで全体として最適な社会になると期待されています。
日本のMaaSはレベル1の段階にある
MaaSの5つのレベルのうち、日本は今、どこに位置しているのでしょうか?前述したとおり、レベル1は、複数の交通手段の料金や時間、距離などが検索できる状態です。最近は、こうした情報が検索できるさまざまなアプリなどが登場しています。目的地までの最適な交通手段や、乗り換え方法を知るために、使っているという人も多いでしょう。そのため、レベル1の段階はすでに実現しているといえます。
近年、その次のステップであるレベル2については、都心部などでは交通系ICカードを利用して複数の交通手段の運賃を決済することができるようになってきている背景から、一部実現ができているという見方もあるようです。ただし、交通系ICはMaaSアプリケーションではないため、MaaSアプリケーションでレベル2が完全に実現されるには、もう少し時間がかかりそうです。
MaaSのメリットやMaaSが解決する社会課題とは?
MaaSが実現されれば、私たちの移動がより便利なものになると想像されます。MaaSがもたらすメリットは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。また、MaaSが注目される理由の一つに、社会課題の解決につながるということが挙げられます。これはいったいどういうことなのか、詳しく説明します。
交通サービスの利便性向上
利用者にとってのMaaSのメリットの一つが、交通サービスの利便性が向上することです。MaaSのレベルが上がれば、一つのアプリ上でさまざまな公共交通機関の検索・予約・決済ができるようになります。加えて、カーシェアや自転車シェアなどのシェアモビリティを組み合わせれば、さらに柔軟な移動ルートが検討できるかもしれません。
このようにMaaSが進めば、複数の交通手段を簡単に組み合わせて利用できるようになり、より多くの人にとって移動の利便性が向上するでしょう。
渋滞の解消・物流の効率化
MaaSには、交通情報を集約して一元的に管理するという側面もあります。物流企業など輸送に携わる分野においても、最適な経路を見つけやすくなるなど、業務の効率化につながると期待されています。それによって、物流企業の利用者にもスムーズに荷物が届くなどのメリットも期待できるでしょう。
観光や地方活性化の促進
MaaSによって移動の利便性が向上すると、これまで訪れたことのない地域に足を運ぶ人も増えるでしょう。人の流れが生まれると、活気につながります。その結果、地方の観光や産業などが活性化し、雇用や移住などの新しい機会に発展することも考えられます。
排ガス減少による環境保護
利便性の高いMaaSが広く普及すると、マイカーではなく公共交通機関での移動を選ぶ人が増えると予想されます。それによって、マイカーの走行に伴う排ガスが抑えられ、環境への負荷が低減できるのではないかと期待されています。
日本のMaaS促進における3つの課題
いくつものメリットがあるMaaSですが、日本はまだレベル1の状態だと考えられています。この先、MaaSがさらに促進されるためには、どのような課題を乗り越える必要があるのでしょうか。
①法整備
さまざまな交通手段をより効率的に利用するためには、現在の公共交通に関する法整備のままでは実現できないこともあります。例えば、バスの運行ルートはあらかじめ定められており、利用者数や時間帯によって運行ルートを柔軟に変更することは認められていません。MaaSが普及するためには、こうした法整備を見直す必要があるでしょう。
②地方への導入方法
地方によっては、人口減少の影響などで公共交通機関の利用者が減り、運行本数が少なくなったり、事業そのものから撤退したりしてしまうなどの課題があります。こうした地域ではマイカーを利用する人が多く、MaaSの導入が難しいケースも考えられます。そのため、都心や地方など地域の特性に応じたMaaSの導入方法を検討しなければなりません。
③複数事業者間でのデータ共有
MaaSでは異なる交通手段の情報を集約し、一元的に管理します。そのため、MaaSのレベルが上がるほど、複数の事業者の間でデータを共有する必要性が生じます。こうしたデータの連携や共有をどのように行うかについても、今後検討を深める必要があります。
日本におけるMaaSの取組み事例
実際に、日本ではどのようなMaaSの取組みが行われているのでしょうか。全国で行われているMaaSの取組みの中から、5つの事例をご紹介します。
(仮称)関西MaaSアプリ
関西エリアの複数の鉄道事業者が協力してMaaSを実現するため、システムやアプリの共同開発に取り組んでいます。異なる鉄道事業者が協力してMaaSに取り組むのは、日本初の事例です。
第一弾として、アプリによって、関西エリアを中心に、複数の交通手段の乗り換え検索をできるようにするほか、チケットストアや観光施設などの紹介を行うサービスをワンストップで提供することを予定しています。アプリは2023年夏ごろにリリースされる見通しです。
大丸有版MaaS事業
東京の大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有地区)でMaaSに取り組んだ実証事業です。大丸有地区は商業店舗やワークスペースが多数あり、さまざまなモビリティや多くの人が行き交います。実証事業では、これら一連の行動データをアプリなどと連携し、大丸有地区の魅力アップを図りました。
具体的には、同地区の施設情報やイベント情報、地下鉄、バス、シェアサイクルなどの利用情報を一括して、アプリで閲覧できるようにし、移動の最適化を促しました。都心部におけるMaaSの事例の一つです。
Universal MaaS
Universal MaaSとは、ユニバーサルデザインとMaaSを組み合わせたもの。ユニバーサルデザインとは、すべての人に使いやすくやさしいデザインのことです。
Universal MaaSの取組みは、車いすユーザーや障がいのある人などさまざまな理由で移動をためらう人に、移動のストレスを軽減してもらうことを目的として、羽田空港の近辺や札幌市内において行われました。この取組みは、運賃や運行状況、ルートなどの情報を利用者に提供するとともに、交通機関が利用者の位置情報を共有することで、スムーズな介助に役立ちました。
沖縄スマートシフトプロジェクト
那覇市・浦添市・本部町・豊見城市の交通機関情報を一つのアプリにまとめ、MaaS化を進めるプロジェクトです。バスやタクシー、船舶、カーシェアなどのさまざまな交通サービスをシームレスにつなぐことで、沖縄県の国道58号線の渋滞を回避し、観光地までスムーズに移動できるようにするなどの取組みが行われています。
この取組みの一環として作られた「my route」というMaaSアプリでは、目的地までのルート検索や複数の交通機関の予約、デジタル乗車券の購入などを行うことができます。
WILLER mobi
東京都豊島区をはじめとする、日本各地の一部を対象に、プロのドライバーが運転する自動車に相乗りして移動するサービスです。mobiと呼ばれる自動車を専用アプリなどで呼び出して利用します。mobiでは、AIが道路状況などを考慮して探し出した最適なルートによって、目的地まで移動します。
利用者は自分で運転する必要がないため、子どもから年配の人まで幅広く利用することができます。また「定額乗り放題プラン」「回数チケットプラン」「ワンタイムプラン」のいずれかから、自分の使い方に合ったプランを選択可能です。
MaaSはスマートシティにおける重要な役割を持つ
MaaSは交通の利便性を向上させるだけでなく、地域の課題解決にも役立つと期待されています。政府は今、ICTなどの技術を活用して人々の暮らしを豊かにするスマートシティの実現を目指しています。そのなかで重要な役割を果たすMaaSは、今後一層と進展していくことでしょう。
よしおちゃん
交通の利便性を向上させ、私たちの暮らしをより豊かにしてくれるMaaS。今後の進展が楽しみですね!