とはいえ、海洋汚染という大きな問題に対して、個人でできる取組みがイメージできない人も多いことでしょう。そこで、海洋汚染の原因や環境への影響、個人でできる取組みについてわかりやすく解説します。
海洋汚染とは
はじめに、海洋汚染の定義についてあらためて押さえておきましょう。海洋汚染とは、主に人間の活動によって海洋が汚染されて環境が悪化することで、近年、環境問題の一つとして考えられています。
海には、プランクトンなどから、クジラやイルカといったさまざまな種類の生き物がいて、食物連鎖のバランスが保たれています。海洋が汚染されると、食物連鎖によって成り立っている、より多くの生き物へと影響が拡大してしまうのです。
その影響は私たち人間も例外ではありません。海洋汚染の影響を受けた海産物を人間が食べ、健康被害が起きることも十分考えられます。このように、海洋汚染は海に限った問題ではなく、私たちとも深い関わりをもつ重大な課題なのです。
海洋汚染の原因4つ
海洋汚染の原因にはさまざまなものがあります。例えば、陸で発生したごみが川を下って海に流入することもあれば、海上の船舶や施設などが原因となることもあります。ここでは、海洋汚染の原因の中から主な4つを解説します。
①プラスチックなどの海洋ごみ
ポイ捨てや不法投棄などによってごみが正しく処理されないと、ごみが陸から川に流され、最終的に海にたどり着くことがあります。また、自然災害などで発生したがれきやごみなどが海に流れ込み、海洋ごみになってしまうこともあります。
海洋ごみの中でもプラスチックは、自然に分解されるまでに長い時間がかかります。そのため、プラスチックごみが海の中でいつまでも残り続け、海洋汚染の原因となっているのです。さらに、海の中を漂うプラスチックごみを生き物が誤って食べたり、プラスチックごみによって傷ついたりするなどの被害にもつながっています。
②船やタンカーから漏れる油
海上の船舶やタンカー、設備などが海洋汚染の原因となるケースもあります。例えば、タンカーが座礁するなどの事故を起こし、海に油が流出したニュースを見たことがある人もいるでしょう。こうした事故も海洋汚染の一因だといえます。
油が海に流出してしまうと、海鳥や魚など多くの生き物の命を奪ってしまう事態になりかねません。また、海上に広がった油をすべて回収することは非常に難しく、漏れた油が海流に乗って遠く離れた地域にまで被害をもたらすこともあります。
③工場排水
工場などの排水に有害な物質が含まれていると、それらが海に流入して海洋の環境を汚染してしまうことがあります。沿岸部だけでなく内陸部の工場などが河川に排水している場合も、結果的に海洋汚染を引き起こすことがあります。
日本において、工場の排水が深刻な健康被害をもたらした代表的な事例といえば、四大公害病の「イタイイタイ病」と「水俣病」です。
イタイイタイ病は、神岡鉱山から排出されたカドミウムが富山県神通川の水を通じて広がり、流域で栽培された農作物を人間が食べることで引き起こされました。また、水俣病は、有害なメチル水銀を含む工場の排水が海に流れ、その海でとれた魚などを食べた人々の体に深刻な 影響を及ぼしました。
こうした重大な事件をきっかけに、現在では、工場などの排水の水質を規制する法律が整備されています。二度とこのような悲劇を繰り返さないためには、法律にのっとった適切な対処が重要だといえるでしょう。
④生活排水
生活排水とは、キッチンやお風呂、トイレなど私たちの暮らしから出る排水のことです。多くの場合、日常生活からの排水も最終的には河川や海などに流されます。そのため、汚れた生活排水が海洋汚染の原因となることもあるのです。
例えば、食べ残しや調理に使った油、大量の洗剤などをそのまま排水溝に流すと、それらを分解するために水中の微生物がより多くの酸素を必要とします。そのため、魚などに十分な酸素が行き渡らず、窒息死してしまうことがあるのです。
このほかにも、海底資源などの探査や沿岸の開発、大気汚染物質を含む雨が海に降り注ぐことなども、海洋汚染の原因になると考えられています。
海洋汚染が環境に与える影響4つ
海洋汚染の影響を受けるのは海の生き物だけではありません。人体への健康被害や、地球温暖化へ悪影響を与えることも指摘されています。海洋汚染の具体的な影響を4点ご紹介します。
①マイクロプラスチックがサンゴや魚に悪影響を与える
マイクロプラスチックとは、5mm以下の微細なプラスチック類のことです。プラスチックごみが川や海などを流されるうちに細かく砕かれ、マイクロプラスチックになることがあります。
マイクロプラスチックは、化学物質が含まれるうえ、生き物の体内に長く留まり続けることによって、生態系に影響を与えるのではないかと懸念されています。
中でも、サンゴは海水を取り込んで養分を吸収しています。この海水にマイクロプラスチックが含まれていると、サンゴと共生している植物プランクトン(褐虫藻)が減り、サンゴそのものに悪影響を与えてしまうと考えられています。
サンゴには、水中の二酸化炭素(CO2)濃度を調節する役割があるとされており、サンゴの活動が低下すると、ほかの生き物にも影響が予想されます。最悪のケースでは、サンゴが死滅し、生態系のバランスが崩れてしまうことまで懸念されているのです。
②プラスチックからメタンガスが生まれて温暖化が進む
海洋のプラスチックごみが日光にさらされると、メタンガスなどの温室効果ガスが発生するという研究結果も報告されています。メタンガスはCO2よりも高い温室効果をもつ気体であり、1トンのメタンガスによる温室効果は、25トンのCO2に相当するとされています。
このように、海洋プラスチックごみが増えれば、メタンガスも増大する可能性があり、地球温暖化を進行させてしまうおそれがあるのです。
③化学物質を含んだ貝や魚を食べた人に健康被害がでる
プラスチックには、さまざまな化学物質が含まれています。海洋に漂うプラスチックごみを海の生き物が誤って食べると、生き物の体内にこうした化学物質が蓄積される可能性があります。
それを人間が食べ続ければ、健康被害が起きる可能性も否定できません。特に、微細なマイクロプラスチックは、気づかないうちに体内に取り込んでしまう可能性があるとされ、健康への影響が懸念されます。
④水質が低下する
海洋汚染によって海が富栄養化すると、赤潮などの発生リスクが高まることがあります。富栄養化とは海水に含まれる栄養分が増えすぎてしまうことで、その原因は人間が使う洗剤や農薬、肥料などに含まれる窒素やリンなどだとされています。
栄養が多いことはよいことのように思われますが、実は環境にマイナスの影響をもたらします。富栄養化することで、プランクトンが増殖して魚のエラに詰まったり、水中の酸素を消費しすぎて魚や貝などが酸欠で死んでしまったりすることがあるためです。これによって悪臭が発生するなど、暮らしにも悪影響を与えることも考えられます。また、魚や貝がとれなくなると水産業にとっても打撃となり、私たちの生活にも影響を及ぼすでしょう。
海洋汚染の現状
海上保安庁では毎年、海洋汚染の現状について調査・報告を行っています。2021の調査では、海洋汚染の件数が493件と過去10年間でもっとも多くなっています。そのうち332件が船舶などからの油によるもの、139件が家庭ごみの不法投棄などの廃棄物によるものだったとのことです。
船舶などからの油の流出によるものが大半ですが、ごみの不法投棄なども一定の割合を占めています。海上保安庁では、船舶を使用する海事・漁業関係者へ講習会などを通じて指導するほか、一般市民に向けてもごみの不法投棄を防ぐ呼びかけなどを行っています。
海洋汚染の対策として国や国際組織が行っている取組み2つ
海洋汚染の問題に国境はなく、解決に向けては国際的な取組みが求められるといえるでしょう。そこで、海洋汚染の対策として国や国際組織ではどのような取組みが行われているのかについて説明します。
①SDGs目標や条約などの国際的な同意
廃棄物を海に投棄することを禁止した「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」は、1972年にロンドンで採択され、通称「ロンドン条約」と呼ばれています。この条約では、水銀やカドミウムなどの有害な廃棄物の海洋投棄などを禁止しました。
さらに、ロンドン条約による海洋投棄の防止をより強化するため、1996年には「ロンドン議定書」が採択され、廃棄物の海洋投棄や洋上での焼却処理が原則として禁じられました。
加えて、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められ、14番目の目標に「海の豊かさを守ろう」が盛り込まれています。このように、国際的な仕組みづくりを通じて、世界全体で海洋汚染の問題を改善しようと進められています。
SDGsについてもっと詳しく知りたいという人は、こちらの記事も併せてご覧ください。
②船舶等に関する規制や海洋汚染防止の指導など行政の体制整備
その一方で、国内でも海洋汚染を防ぐための法制度などが整えられています。1970年には、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」が制定され、船舶などに対して定期的な検査を行うことが義務付けられました。また、海上保安庁では指導などを通じて、海洋汚染の防止に努めています。
海洋汚染の対策として個人ができる4つの取組み
海洋汚染を防ぐために、何かアクションを起こしたいと思う人もいるでしょう。そこで、個人でできる取組みを4点ご紹介します。ライフスタイルなどに合わせて、取り組みやすいものから実践してみてはいかがでしょうか。
①マイボトルや紙ストローを使ってプラスチックごみを減らす
まず、大前提として、飲み物などのプラスチック容器やストロー、マドラーなどを使ったらきちんとごみ箱に捨てる、という当たり前に思えることをしっかり行うことが大切です。その上で、マイボトルやマイバッグ、ステンレスや紙でできたストローなどを利用すれば、プラスチックごみを減らすことができるでしょう。
また、プラスチック製品などをリサイクルする際には、分別し、きれいに洗ってから出すように心がけましょう。きちんと分別されていなかったり、汚れていたりするとリサイクルできないことがあるからです。無理のない範囲でこうした取組みを続けるとよいでしょう。
②海や川のごみ拾いボランティアに参加する
海洋汚染の原因の一つは、道路や河川敷などでポイ捨て、不法投棄されたごみです。そのため、こうしたごみが海に辿り着く前に拾い集めることで、海洋ごみを防ぐことができます。地域によっては、海や川などのごみ拾いのイベントが開催されることもありますので、参加してみるのもよいでしょう。
③大量の洗剤や油などを排水口にそのまま流さない
私たちの暮らしから出る生活排水には、洗剤や食べ残しの油など、海洋汚染の原因となるものが含まれています。そのため、ボディーソープや食器洗い洗剤、洗濯洗剤、料理に使う油などを適量にすることは、海洋汚染を防ぐうえで大切なポイントだといえます。
また、未使用の洗剤や油分の多い食べ残しなどを排水溝にそのまま流すのは控えましょう。自治体の定める処分方法に従い、新聞紙や古い布などで拭き取って捨てるようにすれば、環境に与える影響を軽減できます。
④エコラベルのついた商品を購入する
スーパーマーケットなどに並ぶ海産物の中には、「海のエコラベル」と呼ばれる認証マークがついた商品があります。これは、海洋管理協議会(MSC)という国際的な非営利団体が、持続可能で適切に管理された漁業による海産物に与える認証制度で「MSC認証」といいます。また、責任ある養殖の方法で育てられた海産物には「ASC認証」というラベルが与えられます。
こうしたラベルのついた海産物を選ぶことで、間接的に持続可能な漁業を応援することができます。環境への影響を抑えた漁業が広がれば、結果的に海洋汚染を防止することに役立つかもしれません。
まとめ:海洋汚染の現状を知って対策をとろう
地球の表面積の約7割を占めるという広大な海。私たちは、海からさまざまな恵みをいただいて暮らしています。しかし、海洋汚染という問題は十分に解決できておらず、さらなる対策が求められているといえるでしょう。国際的な条約などによる対策も進められていますが、私たち個人も無理のない範囲で対策に取り組み、海洋汚染を進行させないように心がけたいですね。
みなぱん
海洋汚染は、自分と遠く離れた話のように感じてしまいますが、実は私たちの生活にも原因がある、重大な課題だと気づきました。
私もコーヒーショップでタンブラーを活用するなど、手軽なところから取り組んでいこうと思います。