環境に深刻な影響を与える森林破壊は、地球温暖化や砂漠化の一因ともされています。しかし、実際のところ森林破壊の原因を詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。
そこで、世界で起きている森林破壊の原因や現状、環境に与える影響などについてわかりやすく解説します。読めばきっと、森林破壊に対する世界の取組みや、個人でできる対策がわかるはずです。
森林破壊の原因5つ
森林破壊というと、伐採という木を切り倒す行為をイメージする人が多いかもしれません。しかし、森林破壊の原因は伐採のほかにもあるとされています。はじめに、森林破壊の主な原因を5つ解説します。
①土地利用のための伐採
人口が増加している地域では、需要の拡大にともなって住宅地や農地などを新たに開発する必要があります。こうした開発の際に森林を伐採することがあり、これが森林破壊の原因の一つになっています。国連によると、アジアやアフリカなどの新興国では現在も人口が増加しており、今後も増え続けるとされています。そのため、この先も新たな土地開発の必要に迫られ、森林破壊が進むのではないかと懸念されています。
②違法な伐採
世界の国々では、森林を伐採できる区域や面積などがそれぞれの国の法律で決められています。しかし環境省によると、実際には法律に反して違法な伐採が行われているという問題が指摘されています。違法伐採が行われると、森林の面積が減少することなどによって森林破壊につながってしまいます。
また、違法伐採された木材の多くは、丸太や木材製品などとして外国に輸出されています。こうした木材製品が安価で流通すれば、木材製品全体の価格が値崩れを起こし、持続可能な森林経営が阻害されることもあるのです。
③燃料確保のために行われる過剰な伐採
実は、世界の木材の約半分が燃料として利用されています。日本で過ごしていると想像しにくいのですが、開発途上国では木材を燃やして燃料にしている地域も多く、燃料を確保するために過剰に森林を伐採してしまうことがあります。こうした地域の人口の増加にともなって、森林の破壊も進んでいるとされています。
④非伝統的な焼畑農業
古くから行われてきた焼畑農業。従来であれば、森林を焼き払った後、数年間にわたって農地として利用し、その後は森林が自然に回復するまで待ちます。しかし、近年は人口増加などの影響から、森林が回復するのを待たずに再び草木を燃やしてしまうことがあるのです。このため、農地が回復することができず土地が劣化し、森林破壊が進行する原因の一つになってしまうことが考えられます。
⑤森林火災
森林火災は、焼畑農業や農地の開墾などの際の火の不始末が原因となって起こることがあります。身近なところでは、タバコやキャンプなどの火が燃え移って森林火災に発展することもあります。そのため、森林の近くでアウトドアを楽しむ際には、くれぐれも火の始末に厳重な注意が必要です。
その一方で、人為的な原因のほかに、落雷や干ばつ、猛暑などによって自然に森林火災が発生することもあります。
森林破壊は過去10年間で毎年470万haずつ進んでいる
そもそも森林破壊とは、人間による森林伐採や森林火災などによって森林の面積が減少することを指します。後ほど詳しく解説しますが、森林破壊は環境にさまざまな悪影響を与えることから、深刻な問題だと考えられています。
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の森林面積は、総陸地面積の約3割に相当します。しかし、その森林面積が、2010~2020年の10年間で毎年平均470万ヘクタールずつ減少しているとされているのです。特にアフリカでは、森林面積の減少する速度がもっとも大きく、過去30年で減少スピードがどんどん上がっているとされています。
世界全体でみると、1990~2000年までの10年間よりも森林面積の減少量は鈍化しているとされているものの、依然として森林破壊が進んでいることには変わりありません。
破壊が与える4つの影響
森林破壊は環境に深刻な影響を与えるだけでなく、さまざまなリスクを増大させることも懸念されています。森林破壊による4つの影響について、詳しく解説します。
①野生動物が減少、絶滅して生態系が崩れる
森林破壊による直接的な影響として、動植物の生態系への悪影響が挙げられます。森林破壊が進むと、野生動物のすみかがなくなり、数が減ったり、最悪のケースでは絶滅してしまったりすることも考えられます。
野生動物が減少したり絶滅したりすると、食物連鎖のバランスも崩れてしまうでしょう。特定の植物や動物が異常に増えたり減ったりして、人間の暮らしや環境に影響を及ぼすこともあるかもしれません。一度、生態系が壊れてしまうと回復するのに長い時間を要します。したがって、森林破壊が動植物の生態系にもたらす変化は、長期にわたる重大なものだといえるでしょう。
②木材や薬・農作物の原材料が減少する
動植物だけでなく、森林は人間にとっても大切な資源の宝庫です。例えば、木材としての利用に加え、草木を薬として活用することもあります。また、農作物を育てるための種や苗木などを森林から得ることもあります。
森林破壊が進むと、こうした資源が枯渇する可能性が高まり、産業や農業にも大きな影響が出るかもしれません。そうなると、関連する仕事に従事する人々の雇用が失われることも懸念されます。このように、森林破壊の進行が社会問題に発展するおそれもあるのです。
③気候変動のリスクが高まる
植物は光合成により大気からCO2を吸収します。そのため、森林破壊が進むと、森林によるCO2を吸収する働きが損なわれてしまいます。
CO2は地球温暖化の原因である温室効果ガスの一つです。地球温暖化によって気温が上昇すると、海水面が上昇したり異常気象が発生する頻度が増えたりするなどのリスクが懸念されています。
④新たな感染症拡大のリスクが増加する
森林破壊によって生態系が破壊されると、ウイルスなど病原体の増加を助長すると指摘する意見もあります。
また、森林破壊などによって地球温暖化が進めば、温暖な地域に生息する感染症を媒介する生物の生息域が拡大し、それに伴って新たな感染症が拡大するリスクも指摘されています。実際に、地球温暖化が最悪のシナリオで進めば、デング熱を媒介するヒトスジシマカの生息域が国土の75~96%にまで広がることも予想されています。
世界で行われている森林破壊の対策5つ
では、森林破壊を防ぐために、世界ではどのような対策が行われているのでしょうか。主な対策を5つ説明します。
①国連などにおける国際的な合意形成
1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED、地球サミット)では、環境分野での国際的な取組みに関する行動計画「アジェンダ21」が採択されました。
この「アジェンダ21」では、森林減少対策として、すべての森林の多様な役割・機能を維持することや、森林の持続可能な経営、保全の強化などが掲げられています。また、森林の保全・回復や持続可能な経営に向けて各国が努力し、国際社会が協力すべきことなどを定めた「森林原則声明」も採択されました。
②持続可能なパーム油の利用促進
パーム油は世界でいちばん多く利用されている植物油で、食品や化粧品、洗剤などの原料となっています。パーム油はアブラヤシという植物から抽出されますが、生産効率が高く収穫量が多いこと、価格が安いことなどが特徴です。
東南アジアを中心とする地域では、アブラヤシ農園を開発するため熱帯林を伐採しており、これが森林破壊の一因となっています。また、本来禁止されている焼畑が行われることもあり、森林火災のリスクも指摘されています。
そこで、2004年、非営利組織の「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」が設立されました。RSPOでは、生産と流通のプロセスそれぞれに認証制度を設け、最終的に製品となったパーム油がどこで作られたのか、どのように流通したのかを確認できる仕組みを構築しています。これによって、不適切なアブラヤシの栽培をなくし、持続可能なパーム油の普及に努めているのです。
③認証制度や法律などの整備
木材や紙製品についても、きちんと管理された森林からの製品であることを示す「FSC認証」という仕組みが設けられています。「FSC認証」とは、森林の管理や加工・流通のプロセスが適切かどうかを第三者機関が認証することで与えられる国際的な認証制度です。森林管理協議会(フォレスト・スチュワードシップ・カウンシル)というNGOが運営しています。
また、国内では、合法的に伐採された樹木や木材製品の利用を促進する「クリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)」が2017年に施行されました。さらに、国などの公共機関に対して、環境負荷の低減に役立つ製品を率先して購入することを促す「グリーン購入法」なども施行されています。
④WWFなど非営利団体による取組み
世界自然保護基金(WWF)などの国際的な活動をする非営利団体も、森林破壊の対策に関する働きかけを行っています。具体的には、世界各国のWWF事務局が協力し、野生生物の調査や、地域の人々が森林破壊を行わなくても生活できるようなサポートを行っています。また、森林破壊の現状や原因、森林破壊の対策である国際認証制度などに関する啓蒙活動にも取り組んでいます。
⑤SDGs目標の設定と実施
森林破壊を含む環境問題に取り組むには、個人や企業、行政機関をはじめ国際社会が一致団結することが重要です。そのために、あらゆるメンバーが共通して目指す目標としてSDGs(持続可能な開発目標)が設定されています。
2015年に国連で採択された17の目標と169のターゲットによるSDGsは、2030年に向けて持続可能でより良い社会を目指すための世界共通の目標です。SDGsの15番目の目標は「陸の豊かさも守ろう」であり、森林保全を進めることの重要性が示されています。SDGsについて、もっと詳しく知りたいという人は、こちらの記事をご覧ください。
日本における森林破壊の現状
日本では、国土面積の約3分の2を森林が占めています。これは、OECD加盟国のうち3番目に高い割合です。日本の森林面積は2017年時点で2505万ヘクタール、過去50年間にわたってほぼ横ばいとなっており、内訳をみると、天然林が徐々に減り、人工林が少しずつ増えている状況です。
また、国内の人工林の約半分が樹齢50年以上の樹木で構成されています。こうした樹木を伐採して活用しなければ、新しい木を育てることができません。そこで国では、国産木材の利用を促進するために、住宅だけでなくビルなどの中高層建築物の木造化にも取り組んでいます。古い樹木を適切に活用して森林資源の循環を促すことで、CO2の吸収源としての森林の働きも期待されています。
参考:世界森林資源評価(FRA)2020 メインレポート 概要
参考:森林面積の推移
参考:グリーン成長のカギを握る木材需要拡大と 木材産業の競争力強化
森林破壊の対策として個人ができること2つ
「森林破壊は国際的な問題だから、個人でできるアクションはないのでは?」と思っていませんか。実は、私たち個人のちょっとした行動によって森林破壊の対策に貢献できるかもしれません。どのようなものがあるのか、2つのアクションをご紹介します。
①森林認証マークのついた商品を購入する
お買い物の際に、FSC認証などの認証マークのついた商品を購入すると、間接的に適正な森林管理を応援することにつながります。森林に関する認証マークには、FSC認証のほかにもPEFC認証、SGEC認証などがあります。PEFC認証とSGEC認証は、いずれもスイス・ジュネーブを本部とする国際的な森林認証制度で、持続可能な森林経営を行っていることを示します。こうした認証マーク付きの製品を選ぶことで、日本や世界の森林を守ることに貢献できるでしょう。
②国産の木材が使われている商品を購入する
人の手が入った人工林は、適切な時期に伐採し、新しい木を育てることで森林資源の循環を生み出していく必要があります。伐採の時期を過ぎても木をそのままにしておくと、日差しをさえぎり、土壌の質を低下させてしまうおそれがあるのです。そうなると新しい木が育ちにくくなって、土砂災害のリスクなどが高まることも懸念されます。
しかし、日本の人工林は人手不足や、海外の安価な木材の流通などにより管理が十分に行き渡っていないケースもあります。そのため、地球温暖化対策や森林資源の適切な循環を促す観点からも、国産木材の利用が求められているのです。
そこで、買い物の際にできるだけ国産の木材による製品を選ぶようにすると、こうした森林資源の循環を応援することができるでしょう。その際には、適切な方法で生産された木材であることを示す認証マークも併せてチェックするとよいでしょう。
・日本が木材の蓄積率を高く保てているのは、安価な海外の木材を輸入しているため
・国内の木に対する需要が減少すると、森林の手入れが行われなくなる
・手入れが行われないと森林が過密し、新しい木が育たなくなる
・そうすると古い木が多く残ることになるが、古い木の二酸化炭素排出量は吸収量を上回る
・また日差しが差し込まないので、土が痩せこけてしまう
・結果として地球温暖化や土砂災害のリスクなど森林の機能低下につながる
まとめ:森林破壊の原因や対策を理解しよう
森林破壊と一口にいってもその原因はさまざまであり、人口の増加や燃料としての木材の利用など、地域が抱える課題も浮き彫りになりました。その一方で、国際規模で森林破壊へ対策する取組みも進められています。大切なことは、森林破壊の現状を正しく知り、認証マーク付きの製品を選ぶなど、私たち一人ひとりができる範囲で適切な森林管理を促すことだといえるでしょう。
けいちゃん
私も森林認証マークのついた商品を購入するなど、個人でできることから少しでも取り組んでみようと思います!