ここでは、そんな原子力発電のメリットと課題についてみていきましょう。
※この記事は2022年3月29日に公開した内容をアップデートしています。
原子力発電の仕組み
「原子力発電」は、「火力発電」や「太陽光発電」に比べると、どんな燃料・エネルギーで電気を作り出しているのかがわかりにくいと感じる人もいるでしょう。
「原子力」とは一体どのようなもので、なぜ電気を作ることができるのか、仕組みを見てみましょう。
日本の原子力発電所では、主に沸騰水型炉(BWR)と加圧水型炉(PWR)の2種類の原子炉を使用しています。
BWRは、沸騰した水をそのまま蒸気として利用する原子炉です。そのため、放射性物質が含まれた水で蒸気が作られます。一方、PWRでは、放射性物質を含んだ水がタービン等へ行かないように作られています。ここでは、関西電力が利用しているPWRを例にご説明します。
1.原子炉の中の「ウラン燃料(図の左端の白い棒)」を核分裂させることで熱を作り、図中の赤い部分を高温の水にする。
2. 図中の赤い部分の高温水の熱を熱交換して図中の青い水を蒸気にする。
3.蒸気でタービンを回す。
4.タービンにつながった発電機が動いて電気が作られる。
5.タービンを回した蒸気を海水で冷やして水に戻す。
タービンを回すことで発電する方法は、火力発電と同じですが、タービンを回すための蒸気を作る方法に違いがあります。火力発電が、石炭や石油、液化天然ガス(LNG)を燃やして熱を作るのに対し、原子力発電では、ウランの核分裂時の熱を利用します。
原子力発電の主なメリット
日本でも、原子力発電で多くの電力をまかなっていました。現在でも、フランスのように原子力発電を主な発電方法としている国もあります。これは、原子力発電にそれだけのメリットがあるからです。
そんな原子力発電の主なメリットを紹介しましょう。
メリット1 燃料の安定確保が可能
原子力発電は、ウランという物質を燃料に発電します。ウラン鉱山から採掘されたウラン鉱石が、さまざまな過程を経てウラン燃料となります。
ウラン鉱石は、オーストラリア、カナダなど世界各地の比較的政情が安定した国に点在している資源であるため、確保しやすいといえるでしょう。また、使い終わった後の燃料を処理することで再利用できます。日本はエネルギー資源の乏しい国ですが、ウランを再利用するなら、準国産の燃料として活用できるのです。
メリット2 電力を安定して供給できる
原子力発電では、一度原子炉に入れた燃料は、3年程度取り替えずに発電することができます。
また、原子力発電は、天候や時間帯に左右されず、大量の電気を安定的に作ることが出来ます。仮に100万kw級の原子力発電所と同じ量の電気を太陽光発電所で作ろうとすると、山手線一周分の敷地面積が必要だといわれています。
メリット3 発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない
原子力発電は化石燃料を燃やすわけではないため、二酸化炭素(CO2)を排出することはありません。
地球温暖化を防ぐためには、世界各国がCO2の排出量を意識し、減らしていく必要があります。そこで、温暖化対策をしながら必要な電気をまかなう手段として、原子力発電が期待されているのです。
メリット4 電気料金の安定に役立つ
燃料調達等に関するコストは電気料金にも反映されています。
原子力発電の燃料であるウランは、石油や石炭、液化天然ガスなどを燃料とする火力発電のように、燃料が高騰して発電コストが上がるといったリスクが低いといえます。
原子力発電の主な課題
原子力発電には、安定性や環境面、コストについてのメリットがあります。しかし、その反面、課題も存在しています。
原子力発電で作る電気を利用するにあたり、その課題についても正しく知っておく必要があるでしょう。
課題1 放射線の厳重な管理が必要
原子力発電では、運転にともない、さまざまな放射線が発生します。原子力発電所の安全確保のためには放射線や、放射性物質の管理が必要です。原子力発電所では発電所で働く人と発電所周辺の環境を守るため24時間厳重な放射線管理を行っています。
その管理の難しさを改めて認識することになったのが、2011年の福島第一原子力発電所事故でした。万が一、原子力発電所で事故が起こった場合は、長期にわたって広範囲に被害を及ぼします。この事故以降、自然災害などへの対策をより一層強化しています。例えば、津波の侵入を防ぐための防潮堤のかさ上げや、飛来物から機器を守るための竜巻対策などを実施しています。
課題2 使用済燃料の処理
原子力発電に利用した後のウラン燃料は「使用済燃料」と呼ばれます。「使用済燃料」は処理をすることで再利用ができます。再利用できるのは全体の95~97%で、残りの3~5%は、ガラス原料と溶かし合わせて「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれる物質に加工されます。この物質には、爆発するような危険性はありません。しかし、放射線が出ているため、適切に保管する必要があります。
そこで、日本を含む世界各国では、「地層処分」という方法を採用しています。これは、放射能レベルが低くなるまで地下水等と接触しないよう、以下の手順で厳重に覆った上で、地層深くに埋める方法です。地層処分は、地上で管理するよりも安全上のリスクが少なく、人が管理する手間をなくすことで次世代へも負担をかけない処分方法です。
ただし、長期間、安全に高レベル放射性廃棄物を埋めておくためには、以下のような場所を避け、適切な地域を選定しなければいけません。
・火山や活断層の近く
・地下に資源があって将来掘られる可能性がある
・輸送距離が長すぎて輸送に時間がかかる
適切な場所を選定するために、段階を踏んだ調査を行うことや、地域の意見を聞き取ることなどが法律で定められています。
地上や地下水にも影響のない場所に埋められるとしても、処分場の選定にあたっては、地域住民の理解が必要です。
今後の課題
今後、再び原子力発電所の稼動数を増やしていくためには、原子力発電が抱える課題を解決していく必要があるとともに、安全に稼動させるための新技術の開発や、規制に基づいた運用による安全性の向上が必須です。
それらの課題解決に向けてもさまざまな取組みが進んでいます。
核燃料のリサイクルの推進
使用済燃料を有効活用していくために、核燃料を安全にリサイクルするためのシステムの構築を推進していかなければいけません。
円滑な廃炉に向けた取組み
古くなった原子力発電所は、順次廃炉していくことになります。安全に廃炉を進めるためには、そのための人材や技術を得る必要があるでしょう。
次世代軽水炉やSMR(小型の原子力発電)の開発
現在、さらなる安全性、経済性そして環境性を備えた次世代軽水炉の開発も進んでいます。
加えて、最近ではSMR(小型モジュール炉)が注目されています。その特徴として、「小型」「モジュール」「多目的」が挙げられます。
「小型」にすることで、冷却しやすく安全性が高まり、また原子炉全体を簡単な構造にすることができます。「モジュール」とは、ある程度のところまでを工場で生産・管理し、それを現地で組み立てることです。その結果高い品質管理や短い工期、コスト低減をすることができます。そして、「多目的」とは「発電」の用途以外にも、「水素の製造」や「熱エネルギーの利用」などに使えるということです。
まとめ
原子力発電には、たくさんのメリットがある反面、無視することはできない課題も存在しています。しかし、だからといって「原子力はやめるべき」という発想もここ数年の電力逼迫事情や、化石燃料の高騰などを踏まえると、現実的ではありません。
まずは、さまざまな発電方法のメリットや課題を私たちがしっかり認識しながら、原子力発電がどのようなものなのか、一人ひとりが興味を持って、知識を身に付けていくことが大切ですね。
ももぱん
メリットと課題の両面について正しく知ることが、原子力発電の必要性を考える第一歩だと改めて感じました!