黒部ダムと、知られざる「流木問題」
日本最大級の規模を誇る黒部ダム。総貯水量は約2億m³あり、この水力を活用して年間約10億kWh(一般家庭約30万世帯分に相当)もの電力が生み出されています。
そんな黒部ダムがあるのは、富山県と長野県の県境。北アルプスの豊かな自然に囲まれたこの地では、雪崩などで倒れた木々がダムに流れ着きます。この流木が、長く問題視されていました。
―なぜ、流木が問題になってしまうんでしょう?
若林「ダムには取水口といって、せき止めておいた水を導水路に取り込む入口があります。そこに流木が引っかかることで水力発電の妨げになってしまうので、引き揚げなくてはいけません。ちなみに、黒部ダムでは年間でどれほどの流木が引き揚げられると思いますか?」
―えーっと、10tくらい?
若林「実は、約300tといわれています。流れてくるというと、小ぶりな木や枝を想像されるかもしれませんが、実際には大きな原木が何本もあるんですよ」
―300t……想像もつかない量ですが、引き揚げるだけでも大変な作業になりそうですね。
若林「そうなんです。流木の引き揚げ作業は、ダムの水位が上がる春頃までは始められないですし、黒部ダムは観光名所なので観光シーズン前には終わらせる必要があります。そのため、黒部ダムでは、年に一度、約1ヶ月間で引き揚げを行っています。毎日、クレーンで引き揚げた流木をトラックに載せて約200km離れた富山県南砺市にある工場まで運び出すんですよ」
若林「さらに流木を引き揚げた後の処理にも大きな問題があります。20年以上前までは現地で焼却処理していたそうですが、大量の二酸化炭素(CO₂)が発生してしまいます。こうした流木処理問題を解決するために、関西電力の社員が立ち上がり創業したのが『かんでんエルファーム』です」
黒部ならでは、流木の魅力を活かした商品開発へ
―かんでんエルファームは2000年に創業とのことですが、当初からインテリア・雑貨を販売していたんですか?
若林「創業当初は『土から生まれた木を土へ還す』というコンセプトのもと、引き揚げた流木は、おが粉やチップに加工して堆肥やプランターなど新たな商品として再生活用していました。そのうち、長い年月を経て成長した貴重な黒部の木をより多くの方へ手にとってもらえないか……という想いが生まれ始めました。そこで2010年に誕生したのが『クロベのキセキ』です。“キセキ”というネーミングには3つの思いが込められています。流木が湖に流れ着く自然の“奇跡”、世紀の難工事・くろよん建設を完遂させた偉大な先人の方々の“軌跡”、3つ目はあまりいっていませんが、エルファームが未来に向けて一歩ずつ確実に歩んでいくことを願った“輝跡”です」
若林「商品の多くに“ネズコ”という硬くて丈夫な木材を利用しています。黒部渓谷に自生する希少価値が高い木なので、このネズコの特徴を活かして、ある程度は素材の形が残る商品を作りたいと思っていたんです。木に詳しいプロの意見を伺いながら、どんな商品にしていくか何度も会議を繰り返してラインナップを決めました」
―それぞれの商品の特徴はなんですか?
若林「ブックエンドはアーチ型堤防の曲率を反映したり、カレンダーは洪水吐をモチーフにしていたりと、それぞれの商品に黒部ダムの特徴を活かしています。木目は商品によって一つひとつ異なり、まったく同じものはないので特別感を味わえます。また、使えば使うほど自然と艶が出てくるので、その変化を楽しむことができるのも魅力だと思います」
流木に生命を吹き込む“はじめの一歩”を、かんでんエルファームで
―ところで、流木からどのようにして商品が作られるのか気になります!
若林「先ほどお話ししたように、黒部ダムで引き揚げた流木は富山県南砺市にある工場に運ばれます。ここで商品化する流木を選定しています」
―選別する際のポイントはなんですか?
細川「ポイントは『芯がしっかり残っていること』と『木目が細かいこと』です。これらを兼ね添えた木が丈夫で見た目も良く、商品化に適しています。原木の場合は、商品化できない部分を切り落としていきます」
―ということは、使えなくて捨てられてしまう部分も多そうですね……。
細川「そんなことはありませんよ。確かに、腐りかけていたり、形が崩れていたりすると商品化は難しくなります。しかし、それらはすべて工場のなかでおが粉やチップへと生まれ変わります。バイオマス燃料として再活用されるため、運搬された流木はほぼ100%再活用されているんです」
商品化できると判断された流木はその後、加工場まで運ばれていきます。商品として販売されるのは早くてその年の秋頃とのこと。長い月日と多くの人の努力によって、「クロベのキセキ」というブランドは築き上げられてきているのです。
かんでんエルファーム、未来への挑戦 〜持続可能な地域社会を目指して〜
―今後の目標や新たな取組みがあれば教えてください!
細川「現場のメンバーは、おが粉やチップの製造はもちろんのこと、流木を判断する力をもっと身につけていきたいです。国内には、少しにおいを嗅いだだけで何の木か分かる人もいるんですよ。そのような人たちに一歩でも近づけるように目利き力を鍛える毎日です!」
若林「今後の目標は、かんでんエルファームが行っている地球環境問題への取組みを若い人たちにも知っていただくことです。そのためにはまず、気軽に手に取ってもらえるような新しい商品を開発していく必要があります。時代のニーズに合った商品を開発できるようにと、関西電力の社員とのアイディア交換を交えて日々試行錯誤を続けています」
かんでんエルファームは、脱炭素社会に向けた持続可能な社会づくりのために、地域基盤に根ざす企業として常に地域に役立つことを目指しています。次の10年を見据えながら、今後も新たな取組みに挑戦し続けていきます。
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さまざまな人の想いがつまった商品を、ぜひ手にとってみてください