関西電力は、現在、スペイン・ビルバオ港沖で行われている浮体式洋上風力発電の実証プロジェクトに参画しています。現地で技術を学んだ担当者に、浮体式洋上風力発電について解説してもらいながら、プロジェクトの様子をお届けしましょう。
浮体式洋上風力発電とは ― 海に風車を浮かべるワケ
―いきなりですが、「浮体式洋上風力発電」は海に浮かんでいるんですか?
藤岡「はい、海に浮かんだ風車で発電しています!」
―……??? 大きい風車がなんで浮いていられるんですか。そもそもなぜ浮かせる必要が?
藤岡「不思議に感じますよね。まずは、簡単に『洋上風力発電』についてお話しさせてください。二酸化炭素(CO2)を排出しない風力発電、その中でも海の上で風車を回して発電する方法が洋上風力発電です。陸上に比べると海上は広く障害物がないので大きな風車を建設しやすく、海上を吹く強い風を利用できます。大型の洋上風力発電は発電効率が高いので、カーボンニュートラル社会実現に向けて、注目されているんです」
藤岡「洋上風力発電には、風車の土台を海底に固定する『着床式』と、固定せずにロープなどでつなぎとめておく『浮体式』があります。ヨーロッパの方に多い遠浅の海では、沖合でも着床式にできますが、日本はすぐに深くなる海が多く、着床式で建てられる場所はわずかなんです」
―なるほど、そこで浮体式というわけですね!
藤岡「そうなんです! 日本でも洋上風力発電を増やしたいのですが、水深が深い海域での着床式の建設は難しい。また、沿岸部に並んだ風車による景観への影響や音の影響を心配する声もあります。これらの問題を解決するのが『浮体式』です」
―先ほどの画像を見ると、浮体式にもいろいろな種類がありそうですね。
藤岡「はい、土台の形によって種類が分かれています。今回は、『バージ型』というタイプをご紹介させてください。バージとは、はしけと呼ばれる小型の舟を意味しています」
―舟に風車をのせるんですね! バタンと倒れてしまわないか心配です……。
藤岡「底が平らになっていて、水面と接する面積が大きいので意外と安定するんですよ。また、製造するのが比較的易しく、コストが抑えられる点でも優れています。このバージ型での浮体式洋上風力発電の安全性や実用性を確認しているのが、今回の実証プロジェクトです」
スペイン北部ビルバオ港ではじまった実証実験、DemoSATHプロジェクト
―浮体式洋上風力発電は魅力的ですが、すぐに取り入れられるわけではないんですね。
藤岡「今すぐに大規模な開発を実施するのは難しいですが、2050年カーボンニュートラル社会を実現するためには少しでも早く実用化したい技術です。そこで積極的にノウハウを習得するために、関西電力はスペインでの浮体式洋上風力発電実証実験『DemoSATH(デモサス)プロジェクト』に参画しました」
藤岡「プロジェクトを主導しているSaitec Offshore Technologies 社(以下、サイテック社)は、バージ型浮体を製造できる世界有数の企業です。私も9月末から約40日間、ひとりで現地に乗り込み、学んできました!」
―ひとりで! どんなことを学んできたのですか?
藤岡「プロジェクトのコンセプトや、なぜこのように設計したか、収集しているデータの種類や目的などを学びました。基本的なことばかりですが、非常に大きなプロジェクトなので40日では足りないくらいでした。
デモ機の発電容量は2MW(メガワット)と風車の中でも小型サイズですが、間近で見た風車はとても大きく感じました。24時間気象や運転データを取得して、リアルタイムでデータセンターに送信しているんです。2年間にわたって蓄積したビッグデータを解析して、浮体式洋上風力発電の安全・安定な運転に必要なデータとノウハウを得ることが目的です。
風車自体の様子は、市街地のオフィスにあるモニターから遠隔チェックできるようになっていました。私が滞在していたのは夏の終わりから秋が深まっていく頃で、だんだん海が荒れる季節です。嵐で波の高い日もありましたが、監視カメラの映像では風車が揺れているとは感じないぐらい安定していました」
―高波でも揺れないほど安定しているんですか! 技術の進歩を感じますね。現場の雰囲気はどんな感じでしたか?
藤岡「実証実験はBiMEP(バイメップ)という地元政府が所有している海上テストサイトで行っています。ビルバオにはサイテック社のほかにも、浮体式洋上風力発電に関連した企業が多く集まっていて、浮体式洋上風力発電を推進する環境が整っていました。
サイテック社は若手社員が多く、疑問点はすぐに話し合えるような風通しのいい現場でした。きっと辛い仕事もあるとは思いますが、そのような雰囲気は感じさせずチームで乗り越えていく気概が見えました」
日本で浮体式洋上風力発電がスタンダードになる未来が迫る!?
藤岡「浮体式洋上風力発電はまだまだ開発なかばの技術です。正解がわからない状況で答えを探索するのは、とても興味深く面白さにあふれています。さらに、日本のエネルギー問題を解決できる可能性がある点に大きなやりがいを感じています」
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、関西電力では2040年までに国内での新規発電所開発500万kW(キロワット)を目標に、再生可能エネルギーの拡大を目指しています。浮体式洋上風力発電は目標達成に欠かせない新技術、海に浮かぶ風車がクリーンな電力をお届けする日が近づいています。
【おまけ】スペイン・ビルバオの思い出
バスク地方の名物でもある、「チャコリ」という微発泡ワインがとてもおいしかったです。燻製(くんせい)したパプリカのパウダーを振りかけたタコのマリネとよく合って、おすすめです。公用語はスペイン語ですが、案内標識にはバスク語も併記されているなど、独自の文化を大切にしていることが伝わってくる素敵な街でした!