環境にやさしいエネルギーとして、いま世界中から注目を集める「水素」。水素を安定して利用できる社会を実現するために、日本への輸出を目指してオーストラリアで水素を製造・液化する超大型プロジェクトの検討が本格化しています。なぜ水素が作られ、どのように世の中は変わるのか? 詳しく話を聞いてみましょう。
ゼロカーボンの切り札、グリーン水素
―そもそも「水素エネルギー」と聞いてピンとこない人も多いと思います。なぜ水素は注目されているんですか?
後藤「水素の最大のポイントは、『燃やしても水しか発生しない』ことです。火力発電に使われる化石燃料には、炭素(C)が含まれていて、燃やすと二酸化炭素(CO2)が発生します。水素(H2)には炭素が含まれていないので、二酸化炭素が発生せず、環境にやさしい次世代エネルギーとして期待されています」
―二酸化炭素などの温室効果ガスは、大きな環境課題ですもんね…。でも、水素を作るときには二酸化炭素が出るのでは?
後藤「いいところに気づきましたね! 実は、製造時に二酸化炭素が出る水素もあれば、出ない水素もあるんですよ」
―何の違いなんですか? 詳しく教えてください!
後藤「水素の製造方法は、主に3つに区分されます。まずは、『グレー水素』。化石燃料を原料として高温で分解・改質して水素を製造する方法です。この場合、二酸化炭素が発生し、そのまま大気中に放出されてしまいます。次に『ブルー水素』。グレー水素と同じく原料として化石燃料を使いますが、発生した二酸化炭素を回収・貯留して再利用する方法です。そして最後に『グリーン水素』。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って、水を電気分解する方法です」
後藤「ブルー水素の場合、発生した二酸化炭素を全て回収することは現在の技術ではできない一方、グリーン水素であれば、製造から使用まで基本的に二酸化炭素を排出しません。つまり、ブルー水素よりも一層ゼロカーボンな社会に近づくことができるんです!」
「CQ-H2プロジェクト」で、グリーン水素を大量製造・輸入へ
―グリーン水素は魅力的だけど……わたしたちの生活を支えるほど大量に手に入れることはできるんでしょうか?
後藤「まさにそれが、今回ご紹介する『CQ-H2プロジェクト(Central Queensland Hydrogen Project)』の目的なんです。このプロジェクトでは、オーストラリア(Stanwell Corporation Limited)、シンガポール(Keppel Infrastructure Holdings)、日本(岩谷産業株式会社、丸紅株式会社、関西電力株式会社)の3カ国5社が手を取って、オーストラリアで製造した大量のグリーン水素を、確実・安全に日本へ輸出するサプライチェーン(供給ルート)を作ろうとしています」
―日本では作らず、輸入するのには何か理由が?
後藤「グリーン水素を作るには、太陽光や風力発電で得た再生可能エネルギーが大量に必要です。『よく晴れて、強い風が吹く広い土地』、この条件にあてはまるのがオーストラリアなんです。残念ながら、日本ではこれほど大量かつ安価に再生可能エネルギーを作れる土地が乏しいので、輸入という方法が有力な選択肢です」
オーストラリアのクイーンズランド州グラッドストン地区は、なんと年間300日も晴れるそう!
後藤「作った水素はパイプラインで港の近くまで運びます。気体の状態ではたくさん運べないので、-253℃という超低温で液体にして体積を小さくし、船で日本に運びます。グラッドストン地区は日本からも近く、大きな港もあるので、水素の製造~輸出にピッタリなんですよ」
水素の実用化を見据える、関西電力
―輸入された水素はどのように使われるんでしょうか?
後藤「購入した水素の大部分は火力発電の燃料として使用する予定です。関西電力は姫路エリアに天然ガスを燃料とする大規模な火力発電所を保有しており、ここで水素を利用することを検討しています。姫路エリア近辺は、日本を代表する企業の製造拠点が集まるものづくりの地域なので、当社以外にも多くの水素の需要が見込まれると考えています」
―もうちょっと教えてください!火力発電に水素ですか?
後藤「今回のプロジェクトとは異なりますが、当社では、水素利用の実用化に向けたさまざまな検証を進めているんです。その一つが火力発電です。火力発電所で、従来の化石燃料に水素を混ぜて、安定した発電が可能かどうかを検証する予定です。将来的には燃料を水素100%とした火力発電を目指しています。そうすれば、二酸化炭素を大量に出す存在である火力発電が、なんと二酸化炭素排出ゼロの環境に優しい発電方法に変わるんです」
―二酸化炭素を出さない火力発電…… 大きな時代の分岐点になりそうですね!
グリーン水素サプライチェーン構築へさらに前進!
後藤「水素をミックスした火力発電を2030年頃からスタートするため、CQ-H2プロジェクトだけでなく当社も全力で走っています。本プロジェクトでは水素の製造・液化・貯蔵・出荷までを対象範囲として検討を進めていますが、水素を運ぶための大型専用船の設計・製造、日本側の受入拠点の整備、水素発電の運用技術の確立など、プロジェクトの外でも同時並行で進めなければならない重要課題がたくさんあります。どれか一つでも欠けると、サプライチェーンが完成せずゴールを達成できません」
―ご自身は、プロジェクトの中でどのような役割を担われたのでしょうか?
後藤「私は、主にFEED(※)を実施する契約の協議や、FEED実施のための計画やスケジュール等のさまざまなドキュメントの調整を行いました。法務部門や社内の関係者とも連携しながら、当社側の窓口として、FEEDの開始に向けて各パートナーとの調整を行うのが私の役割でした」
―多国籍プロジェクトならではの困難もありそうです。
後藤「そうですね……。プロジェクトの進め方に対する考え方の違いや言葉の壁、Web会議ならではのコミュニケーションの難しさなど、思い返せば多くの困難に直面しました。でも、『サプライチェーンの構築』という目的をパートナー企業の担当者との間でしっかりと共有し、さまざまな困難を乗り越えて、ついにFEEDを実施する契約を2023年5月に5社間で締結できました」
※FEEDとは、Front End Engineering Design の略。概念設計・事業化調査後に実施する基本設計(各商務・財務、契約に係る検討含む)を行う。
困難に立ち向かいながら、着実に前進するプロジェクト。この先にはどんな未来が待っているのでしょうか。
ごくごく自然に、ゼロカーボンな未来へリーチ!?
―水素が導入される2030年、わたしたちの生活はどのように変わるのですか?
後藤「発電用の燃料が化石燃料から水素に変化しても、電気の使い勝手などは変わらないため、見た目上の生活はほとんど変わらないと思いますが、クリーンな社会の実現に向けて大きな一歩を踏み出すことになります」
後藤「地球温暖化対策として脱炭素社会の実現が急がれるなか、当社グループでは『ゼロカーボンビジョン2050』を掲げて『発電事業をはじめとする事業活動に伴う CO2排出を2050年までに全体としてゼロとする』と宣言しています。CQ-H2プロジェクトが確立すれば、液化水素の調達や火力発電での利用が進むと考えています。発電用燃料としてだけではなく、姫路エリア周辺の産業や、燃料電池自動車などにも水素利活用の幅は広がっていくでしょう。近い将来にこれらを実現し、ゆくゆくは脱炭素社会を現実のものとすべく、より一層、本プロジェクトの確立に向けて前進したいと思います」
―生活を変えることなく、よりクリーンな社会に近づいていくんですね。オーストラリアから水素がやってくる日が待ち遠しいです!
ゼロカーボンな未来を本当に実現するかもしれない、水素エネルギー。「水素の安定供給と普及」に向けて、関西電力ではこれからもパートナー企業と協力してプロジェクトを進めていきます。
けいちゃん
あたりまえの生活を変えることなく、ゼロカーボンな社会を実現できるかもしれない水素エネルギーに期待が高まりますね!!