美味しく食べられて、しかも栄養価が高いにもかかわらず、市場に出回ることなく廃棄処分されてしまう食材たち……。目を覆いたくなるような、もったいない現実があることをご存知でしょうか? 今回は、そうした食材の一つにあたる「未利用野菜」を活用して地域課題の解決を目指す、関西電力発のプロジェクトをご紹介します。
プロジェクトの中心人物は、入社2年目の小南萌。未利用野菜の現場に衝撃を受けた彼女が、仲間たちと一緒に考え、パートナー企業の協力により生まれたのは、なんと「ドーナツ」でした。未利用野菜から生まれた、美味しくて栄養たっぷりなドーナツに込めた彼女のホットな想いとは? 素直な言葉で語ってもらいました!
私たちの目に触れることなく、生産現場で捨てられる野菜を救いたい
─近頃、ニュースでフードロスが取り上げられているのをよく見ます。
小南「ご存知の方も多いと思いますが、フードロスは深刻な社会問題です。本来食べられるはずの食品のロスは、国内で年間500万t以上発生しているとの統計が発表されています。さらにこの統計値に含まれず、年間200万tものロスがあるといわれているのが『未利用野菜』と呼ばれるものです」
─未利用野菜、ですか?
小南「本来は食べられるのに、やむを得ない理由で捨てられてしまう野菜のことです。私たちがスーパーや青果店で見かける野菜は、サイズや形状など、市場で定められた規格に“合格”したもの。つまり、規格外の野菜は商品にならないため、家畜の飼料やたい肥にしたり、それすらできない場合は、廃棄処分されたりします。そして廃棄処分には、多額の費用が発生するケースもあるんです」
─なんとも、もったいない話です……。
小南「フードロスは、単に“もったいない”というだけの話ではなく、ゼロカーボンの観点でも、非常に重要な問題の一つです。結果的に食べられない農産物を生産・加工・流通といった過程に乗せているという点で、無駄なCO2を排出させているからです。仮に世界中のフードロス由来のCO2排出をまとめると、日本は世界で第3位の排出源になるともいわれています」
小南「それに、生産者の方々は未利用野菜に対する廃棄コストや手間の部分で、かなりご苦労をされているんです。現場でお話を伺うことで、『大事に育てた野菜を無駄にせず、なにかに役立てることができないだろうか』という、生産者の方々の悩みを解消する手助けをしたい! と、強く感じました」
フードロス削減に役立つ『オカラット ベジドーナツ』とは?
─そんな想いを形にしたのがドーナツというわけですね!
小南「はい。この度、未利用食材の一種である“おから”を活用した商品を取り扱うオカラテクノロジズさんと一緒に『オカラット ベジドーナツ』を開発しました」
─おからといえば、お惣菜の材料などに使われるヘルシーな食材というイメージがあります。
小南「おからは食物繊維やたんぱく質が豊富で、しかも低糖質な食材です。お豆腐を作る過程で生まれるおからは、年間で約70万トン発生するのですが、実はそのなかで食用になっているのは、わずか1%に過ぎません。全体の半分は家畜の飼料に使われるものの、残りはそのまま焼却処分されてしまうんです。そんなおからを活用する事業をしているオカラテクノロジズさんと、私たちが目指すビジョンが一致したことで、今回のコラボレーションが生まれました」
美味しいのはあたりまえ! しかも栄養たっぷりな『オカラット ベジドーナツ』の魅力を紹介
─『オカラット ベジドーナツ』とは、どのようなドーナツなのでしょう?
小南「簡単にいえば、おからでつくった生地に、各種の野菜を粉末化して練り込んだドーナツです。小麦粉で作る一般的なドーナツに比べ、低糖質・低カロリーで、野菜の栄養素をたっぷり摂れるんです」
─今回は、3種類の野菜を練り込んだということですが。
小南「先ほどもご説明したように『オカラット ベジドーナツ』で使用されているのは、本来は食べられるのにやむを得ない事情で捨てられてしまう野菜です。その中から、第1弾として『アスパラガス』、『かぼちゃ』そして『芋づる』の3種を選びました。その決め手は、なんといっても風味の良さ。未利用野菜を活用しフードロス削減に貢献する食品とはいえ、やっぱり美味しくなければ食べたいとは思いませんよね? また、野菜を練り込むことで栄養バランスも良くなっています」
─それぞれの商品の、おすすめポイントを教えてください。
小南「まずは『アスパラ』ですが、ドーナツ1個にアスパラガス2本分に相当する粉末が練り込まれています。それでいて、アスパラガス特有の青臭さやクセはほとんど感じられない、食べやすさが大きな魅力です。
一方『かぼちゃ』は、かぼちゃ本来の味わいを活かした、やさしい甘さと、しっとり柔らかい食感が魅力となっています。個人的には、断面の黄色い色味もお気に入りですね。
最後の『芋づる』ですが、そもそも芋づるが食べられることを知らない方も多いのではないでしょうか? 私も今回、初めて食べたんですが、特にクセもなく、鉄分やカルシウムが豊富な食材というだけでなく、粉末化させるとほうじ茶のような香りがするんです!」
『“誰か”ではなく、“私”がやるんだ!』今回のプロジェクトに抱く想い
─美味しくて、しかも栄養たっぷり、さらにフードロス削減にも貢献できるとは、素晴らしい話なのですが……。なぜ関西電力がドーナツ作りに関わっているのか、気になる人も多いと思います。
小南「私も、電力会社に入社して、まさかドーナツ作りに関わることになるとは、思ってもいませんでした(笑)。関西電力の経営理念(Purpose)に『あたりまえを守り、創る』という言葉があります。これをもとに、当社ではエネルギー事業だけでなく、暮らしを支えるさまざまな“あたりまえ”を守り、創るための事業を展開しているんですよ」
─ドーナツ作りを通じて、どんな“あたりまえ”を目指しているんでしょうか?
小南「大きくは、フードロス問題を解決し、ゼロカーボンを実現すること。そして持続可能な地域へ貢献したいと考えています。ドーナツ作りはその一歩ですが、農業や水産を含む『食領域』は、すべての地域に共通するテーマなので、やれることはまだまだあります」
小南「将来的には、エネルギー事業との相乗効果もあると思います。今回は未利用野菜として食べられるものを活用しましたが、食べられない部分も含めて引き取り、メタン発酵によるバイオガス発電に活用するなど、当社がもつ知見も活かしたイノベーションを起こせるんじゃないかと。すべての生産物に価値をつけて循環できる仕組みを作り、究極的には“ロス”の概念をなくすことができればと考えています」
─プロジェクトは、今後も続いていくわけですね。
小南「もちろんです! 今回の『オカラット ベジドーナツ』で用いた野菜を粉末化する技術は、グリーンエースさんという企業にご協力いただいたのですが、その技術を使って次のプロジェクトも動き出しています。国内でも、類似の取組みが広がりを見せており、私たちも、点から線、線から面へと取組みを広げていけたらと思っています」
─では最後に、読者の皆さんへ一言お願いします。
小南「お話ししたように、今回の『オカラット ベジドーナツ』は、未利用野菜の現実を皆さんに知っていただき、一緒に課題解決を考えていきたいという、私たちの想いから生まれたものです。その想いを伝えるために、ドーナツの開発はもちろん、商品紹介ページに掲載されている写真やテキストなども、すべて私たちがこだわって制作しました。
個人的な話になりますが、今回のプロジェクトを通じて気づいたのは『“誰か”ではなく、“私”がやるんだ!』という姿勢の大切さです。地域課題の解決や持続可能な社会を実現するためには、“誰か”ではなく、一人ひとりの意識と行動が必要ではないでしょうか……なんて、ちょっと真面目になり過ぎましたね(笑)」
まとめ
『オカラット ベジドーナツ』に込めた、プロジェクトメンバー小南の強い想い、そして関西電力の願いが伝わったでしょうか?
今回のプロジェクトは、フードロス解消のほか、食料生産の現場で発生するエネルギーロスの解消をも視野に入れた、関西電力イノベーションラボが取り組む「アップサイクル事業」の一つです。「アップサイクル」とは、これまで捨てられていた物たちに、新たな付加価値を持たせ利活用すること。持続可能な社会の実現に向け、関西電力ではさまざまな取組みを進めているところです。ぜひ、関西電力のこれからの取組みにもご注目ください!